【ロンドン火災】 少なくとも58人が推定死亡と警察 女王は「国中が深沈」と声明
ロンドン西部の公営高層住宅を襲った火事について、ロンドン警視庁は17日、少なくとも58人が行方不明で死亡したと推定されると発表した。エリザベス女王は同日、異例のコメントを発表し、数カ月の間に英国を襲った「相次ぐ悲劇」の被害者を追悼し、国を挙げて支えると表明した。
ノース・ケンジントン地区にある公営住宅グレンフェル・タワー(24階建て127戸)で14日未明に火事が発生し、炎はたちまち建物全体に延焼した。出火原因は明らかになっていないが、警察は不審火を疑わせるものは今のところないと話している。火勢は激しく、鎮圧には消防士200人以上による24時間以上の消火作業を要した。
ロンドン警視庁のスチュアート・カンディ警視長は17日までに58人が行方不明で、死亡が推定されると発表し、人数はさらに増える恐れがあると述べた。捜索活動の大部分が終了するまでには数週間かかる見通しだが、「愛する人たちをできるだけ早く発見し回収していく」方針を示した。
カンディ警視長は、自力で建物を脱出した人たちは自分の安全を当局に知らせるよう呼びかけた。
これまでに30人の死亡が確認されている。BBCの取材では、約70人が行方不明とみられる。
消防当局は、生存者がこれ以上発見されるとは考えていないと話す。16日現在で24人が入院中で、12人が重体という。
これまでに名前が公表された犠牲者3人は、シリア難民で土木工学の学生だったモハメド・アルハジャリさん(23)、両親や弟と暮らしていた5歳のアイザック・シャウォちゃん、21階に母親と住んでいたアーティストで写真家のハディージャ・セイさん(24)。セイさんの作品は現在、ベネチア・ビエンナーレ国際美術展に展示されている。
警察は、火事を不審火とは見ていないが、事件捜査に着手した。
地方政府協会によると、全国各地の区役所がそれぞれの地元にある公営高層住宅の安全性確認に着手した。
BBC番組「ニュースナイト」の取材で、2015年の大規模修繕工事でグレンフェル・タワーに使われた外装材は、芯に断熱効果の高いミネラル素材ではなく、ポリエチレン(プラスチック)を使った商品名「レイノボンド」だと分かった。
コミュニティー・地方自治省によると、ポリエチレン芯とアルミパネルからなる外装材は「現在の建築基準を満たさず」、18メートル超の建物に使うべきものではないと話す。ただし同省は、グレンフェル・タワーで使われている外装材については、調査結果を待つ必要があると、回答を避けた。
女王が異例の声明
16日に火災現場近くで住人やボランティア、消防士たちを慰問したエリザベス女王は17日、この日は公式行事としての女王誕生日(本当の誕生日は4月)にあたる「本来ならお祝いの日」だけれどもと前置きし、「今年はしかし、国中がとても深沈とした気持ちでいることを無視することはできません」とコメントを発表した。
女王は、英国が「ここ数カ月の間にひどい悲劇を相次ぎ目のあたりにしてきました。こうした出来事に直接影響を受けたすべての人たちに、私たちは引き継続き、国をあげて思いと祈りを寄せています」と書いた。さらに、「最近マンチェスターやロンドンを訪れ、国中の人たちがただちに、助けを必要として切迫する人たちを慰め、支援しようとする様子に、非常に感銘を受けました」と国民を称えた。
その上でエリザベス女王は、「試練を与えられた英国は、困難を前に決然としています。同じ悲しみを抱き団結する私たちは、同じように断固として、恐れもひいきもせず、打撃と喪失であまりにひどいことになった生活を立て直そうとする、すべての人を支えていきます」と表明した。
16日に現場近くのウェストウェイ・スポーツ・エンターを訪れた女王とウィリアム王子は、ボランティアや住民、地域代表と面会。女王は、消防士たちの「勇気」を称え、支援を提供するボランティアたちの「素晴らしい思いやり」を称賛した。
女王は自爆攻撃を受けたマンチェスターも事件後間もなく訪れ、入院中の負傷者を慰問している。
BBCのピーター・ハント王室担当編集委員は、今回の女王声明は形式に則った儀礼的なものではなく、国民の怒りに応えて国をまとめようとした異例のものだと説明する。
「正義が欲しい」
被害に遭った住民への支援を求めて、ロンドン各地で追悼集会や抗議集会が開かれている。
タワー棟を所管するケンジントン・チェルシー行政区の区役所には、50~60人が押し寄せ、家を失った人たち「今すぐ支援を」と強く求めた。
区役所前の抗議は午後3時ごろに始まり、たちまち膨れ上がった。午後4時半ごろに大勢が区役所の階段を上り、「正義が欲しい、正義が欲しい」と唱えながら建物内に入った。
集まった一人は、「何がどうなってるのか、誰にも分からなくて、みんなすごく怒ってる。(被害者の中には)道端で寝るしかない人たちがいて、そんなのおかしい」と批判した。
抗議を呼びかけたムスタファ・アル・マンスールさんは、できるだけ多くの被害者に地元で住む場所を提供し、被害者に資金援助を提供するという行政区の声明を読み上げた。しかしマンスールさんは、行政側の回答を「薄っぺら」で「具体的な答え」が何もないと批判した。
「みんな回答に満足していない」とマンスールさんはBBCに答えた。
「みんなものすごく不満でイライラしていて、建物の方に歩いて行った。無理やり乱入したわけじゃない。区役所のロビーに入って、話していただけだ」
警察が現場に到着しバリケードを設置したため、「お互いぶつかりあう」事態になってしまったと、マンスールさんは話した。
緊急基金
メイ首相は同日、地域のコミュニティー・センターでグレンフェル・タワーの住民たちと面会した。この建物の前にも大勢が集まり、出てきた首相に「恥を知れ!」、「卑怯者!」などの罵声を浴びせた。首相は前日に火災現場を視察した際、被害者と話をしなかったことが非難されている。
野党・労働党のジェレミー・コービン党首やロンドンのサディク・カーン市長は、メイ氏と同じ15日に現場を訪れ、住民たちの話に耳を傾けていた。
住民の反応について問われたメイ首相は、「私はいま何よりも、支援を現地に届けることを最優先している」と答えた。「政府は必要な資金を提供している。政府として、原因を徹底的に究明する。住民に住居を提供する。そうしたことが確実に実施されるようにする」と首相は述べた。
メイ首相は500万ポンド(約7億円)の「グレンフェル・タワー住民裁量基金」の創設を発表。家を焼け出された住民に対して、3週間以内にできるだけ近隣に新居を提供し、その間は仮住まいの費用を負担し、さらに必要な資金援助を提供するというもの。
住民と面会した首相はさらに、15日に発表した原因究明公開調査をどのように実施すべきか住民たちと協議するほか、住民たちの弁護士費用を国が助成することになると述べた。
「この悲劇に影響を受けたすべての人が、政府の支援保証を必要としている。皆さんがひどいつらい思いをしている今、政府は皆さんを支える用意がある。私は何としても、それを実現する」
コービン党首は首相あての公開書簡で、首相が指示した原因究明の公開調査について、「学ぶべき教訓をすべて確実に学ぶ」よう保証する必要があると呼びかけた。
「この恐ろしい火災発生に至るまで、どういう対応がとられたか、あるいはとられなかったのか、すべて調べて検討する権限を(調査委員会に)与える必要がある」とコービン氏は求め、「他の類似建物の安全基準についてどのような対応が喫緊に必要なのかも、(調査委員会は)特定しなくてはならない」と訴えた。
追悼と抗議
現場近くのラティマー・キリスト教センター前では数百人が並び、犠牲者のために2分間、涙ながらの黙祷(もくとう)を捧げた。
家族と5階自宅から脱出したマハド・エガルさんは、「最初はすぐ収まるかと思ったのに、建物の外装に火が付くと、あっという間に上に燃え広がっていった。自分たちが助かったことが信じられない」と話した。
議会や官公庁の並ぶウェストミンスター地区でも大勢が集まり、首相官邸のあるダウニング街へと向かった。「グレンフェルに正義を」、「メイは辞任を」、「犠牲者の血はお前たちの手に」などと繰り返しながら、官庁街ホワイトホールを平和的に行進していたが、ダウニング街に入る前に警察に制止された。
その後は北へ、観光客や買い物客で混雑するオックスフォード・サーカスへ進み、座り込みの抗議を続けた。BBC本社前で1分間の黙祷を捧げた後、西へ進み、火災現場のランカスター・ゲートへと到着した。