【解説】 北朝鮮の大型最新ICBM、分かっている3つのこと
北朝鮮は10日未明、異例の夜間軍事パレードで新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を公開した。その「とてつもなく巨大」なミサイルは、北朝鮮の兵器に詳しいベテランアナリストたちをも驚かせた。防衛の専門家メリッサ・ハナム氏が、新型のミサイルは一体どういうものなのか、そしてなぜアメリカや世界にとって脅威なのかを解説する。
朝鮮労働党創建75周年祝賀行事は10日午前0時から、平壌の金日成広場で開催された。深夜の軍事パレードは前代未聞だった。
大規模なマスゲームが行われるなど、祝賀行事は世界中の予想どおり壮麗に演出された。そして、経済制裁や新型コロナウイルス、台風被害に直面する中、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が涙ぐみながら国民に語りかける場面もあった。
それから最後にもうひとつ、重要なことがある。今までで最大規模のICBMがお披露目されたことだ。
このミサイルについて、分かっていることを3つ解説する。
1. 金氏が誓った「戦略兵器」
2020年1月1日、国営メディアは金氏の毎年恒例の新年のあいさつに代わり、前日の朝鮮労働党中央委員会総会での同氏の発言を報じた。金氏は「先進国のみが保有する最新鋭の兵器システムを開発している」と発表した。
具体的に、開発中の「戦略」(つまり核)兵器システムに言及したというわけだ。
金氏は「今後、アメリカが時間を延ばせば延ばすほど、朝米関係の解決を躊躇(ちゅうちょ)すればするほど、予測できず強大になる朝鮮民主主義人民共和国の威力に無策のままやられるしかなく、ますます窮地に陥るようになる」と述べ、核兵器開発をあからさまにアメリカと結びつけた。
10日に公開されたICBMが、金氏が約束していた戦略兵器であり、間違いなくアメリカを標的にしている。トランプ政権との交渉が失敗に終わり、核武装を既成事実化しようとしている。
2. 米ミサイル防衛システムへの新たな脅威
北朝鮮にはすでに発射実験を終えたICBMが2種類存在する。1つは2017年に2度の発射実験を行った、単一核弾頭を搭載する「火星14」だ。射程は西ヨーロッパのほぼ全域とアメリカ大陸の約半分を収める約1万キロだ。
同じく2017年に実験を行った「火星15」の射程は約1万3000キロで、アメリカ大陸全域に到達できる。これも単一核弾頭を搭載したICBMだ。
今回明らかになった新型のICBMの発射実験はまだ行われていない。新型も2段式の液体燃料を使ったミサイルだが、長さも直径も「火星15」を上回っている。
ミサイルのエンジンが公開されるか、発射実験が行われるまでは正確な射程距離はわからないだろう。
ただし、この構造から北朝鮮の目的ははっきりした。
ミサイルの射程距離を伸ばす必要はもうない。その代わりに、ミサイル1基に複数の核弾頭を搭載することに注力している。
これは、すでに悪戦苦闘しているアメリカのミサイル防衛システムにとって、さらなる打撃になるだろう。多弾頭型に対抗するために、複数の迎撃機が必要となるからだ。
高度な核兵器を持つ国々にはMIRV(多弾頭独立目標再突入体)があり、北朝鮮も同様のものの保有を目指している。
3. 切迫した懸念材料
新型ICBMをめぐっては構造上の疑問がいくつか残っているし、実験や配備の時期は不透明だ。しかし当面の懸念は、ミサイルを輸送するのに使われたトラックにあるだろう。
北朝鮮の核戦争能力の大きな制約となっているものの1つは、発射台の数だ。結局のところ、発射台の数しかミサイルは発射できない。
アメリカは北朝鮮が発射できるのは多くてもICBM12基と見積もっている。これは、すでに確認されている発射台6台で1基ずつ発射し、アメリカの報復が始まる前に迅速に2発目を発射すると仮定した場合だ。
2010年、北朝鮮は中国から大型トラック「WS51200」6台を不法に輸入。油圧装置を改造して移動式発射台(TELs)に転換させた。これらはICBMをパレードに登場させたり、輸送する際にも用いられる。
北朝鮮にとってこうしたトラックは非常に貴重なもので、ミサイルの発射前には現場から移動させる。発射実験が失敗した場合に壊れても、交換は極めて困難だからだ。
今回のパレードには初めて6台以上のトラックが登場した。新たなトラックは大幅に改造されていた。
北朝鮮は経済制裁や輸出規制を受けているにも関わらず、今も大型発射台の部品を入手できていることは明白だ。また、独自の方法で改造してミサイル発射台を製造できる製造部門を設置していることも明らかだ。
北朝鮮は新型ICBMを経済制裁などの苦境に見舞われる中でつくりあげた。これは、北朝鮮やその指導者、あるいは国民の技術力を過小評価してはならないという、世界に向けたメッセージだろう。
メリッサ・ハナム氏は大量破壊兵器とオープンソース・データの専門家で、 ワン・アース・フューチャー財団のオープン・ニュークリア・ネットワーク(ONN)副所長。