年収1300万円でも「低所得」 米サンフランシスコの実情

ライアン・ナン、ジェイ・シャンボー 米ブルッキングス研究所「ザ・ハミルトン・プロジェクト」

サンフランシスコ

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米国で年収が11万7400ドル(約1300万円)の家庭が「低所得層」に分類される街があると政府の統計数字が示した。なぜこんなことがあり得るのか。

年収10万ドル以上が「貧しい」という状況は、多くの人を驚かすかもしれない。

しかし、所得と住居費を勘案すれば、一部の家族にとっては現実だということが、米住宅都市開発省が最近発表した報告書で明らかにされている。

報告書によると、サンフランシスコ市とサンマテオ、マリン両郡では、11万7400ドルの年収がある4人家族は「低所得」となり、7万3300ドル(約820万円)の場合は「非常に低い所得」に分類されるという。これは米国内で最も高い水準になる。

米ブルッキングス研究所「ザ・ハミルトン・プロジェクト」が作成したインタラクティブ・ウェブサイトでは、米国各地、また職種間でいかに所得水準に幅があるのかを検討し、米全土で都市と地方で何が起きているのかを明らかにしようとしている。

Group of girls sitting by housing

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貧困水準以下

米国では、4人家族の3分の2近くの年収がサンフランシスコで「低所得」とされる11万7400ドル以下だ。

米国全体では、4人家族の中央値は9万1000ドル(約1020万円)で、全ての所帯では5万9000ドルになる。(このコラムでは中央値を主に使う)

そして3億2600万の人口がある米国全体で、4000万人以上が4人家族としての貧困水準(2万5100ドル)を下回っている。

すべての職種を見ると、一部の大都市での収入が他の場所よりもずっと高い水準にあることが分かる。

都市部の年収の中央値で色分けした米国の地図。薄い青から3万5000ドル未満、3万5000~4万5000ドル、4万5000~5万5000ドル、5万5000ドル以上。白はデータなし(出典:米国勢調査局)
画像説明, 都市部の年収の中央値で色分けした米国の地図。薄い青から3万5000ドル未満、3万5000~4万5000ドル、4万5000~5万5000ドル、5万5000ドル以上。白はデータなし(出典:米国勢調査局)

その格差が特に目立つのがサンフランシスコだ。

サンフランシスコがITなどテクノロジー分野の中心地になり、好景気のけん引役となるなか、多くの高所得者が同市に住むようになった。

サンフランシスコ市と近隣のアラメダ、コントラコスタ郡など都市部に住む25歳から64歳の正社員の年収は、2008年から16年にかけて26%増加し、他の多くの主要な都市部の伸びを大幅に上回った。2016年には年収の中央値が6万3000ドル(約710万円)に達した。

もちろん、米国で賃金が高い地域は他にもある。

25歳から64歳の年齢層で、典型的な正社員の年収は、シリコンバレーに位置するサンノゼで6万5000ドルで、ワシントンDCでは6万600ドル、ボストンでは5万5700ドルだ。

各都市の年収中央値の推移(単位:千ドル)
画像説明, 各都市の年収中央値の推移(単位:千ドル)
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年収が高い地域には、多くの高賃金の仕事がある。

サンフランシスコでは、最も収入が高い職種に分類される医師の年収の中央値は19万3400ドル(約2180万円)、最高経営責任者(CEO)や自治体幹部は16万7300ドル(約1840万円)、ソフトウェア開発者は11万7100ドル(約1320万円)だ。

しかし、年収がずっと少ない人々もたくさんいる。

最も低収入の職種に分類される農業従事者は1万8500ドル(約210万円)、保育所職員は2万2300ドル(約250万円)が、それぞれの中央値だ。

他の米都市の場合はこれよりかなり低い。

ミシガン州デトロイトでは、医師の中央値は14万4300ドル(約1625万円)で、保育所職員は1万5000ドル(約170万円)になる。

だが、年収の大きな違いは全体像の一部に過ぎない。

特に住居費を中心とした生活費が、どの程度余裕のある生活ができるのかを決める。実際、サンフランシスコ地区の一般的な生活費は全米平均を25%上回っている。

しかし、年収も全米平均を45%上回っているため、サンフランシスコはそれでも際立っている。

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住居費に特に注目した場合、サンフランシスコの比較的な良さは薄れてくる。

多くの大都市では、厳しい建築規制や所得格差が、高水準の賃貸価格や住宅価格の問題をさらに悪化させている。

賃貸価格の高さが、10万ドル以上の所得がある家族の一部を「低所得層」に分類する理由の背景にある。

例えば、サンフランシスコ地域の寝室が2つあるアパートの妥当な賃貸価格は一月当たり3121ドル(約35万円)だとされる。2008年には1592ドルだったので2倍近くに高騰したことになる。オハイオ州シンシナティでは、845ドル(約9万6000円)で、その差は270%と、収入の中央値の差の50%よりもはるかに大きい。

サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジ

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このため、サンフランシスコ住民の多くにとって、生活費を抑えることには大きな困難が伴う。

政府は、全米レベルでの低所得者を、収入が同じ地域に住む同じ人数の家庭が得ている収入の中央値の8割以下だった場合と定義付けている。

しかし、住居費が通常よりも高い地域では基準値は高くなる可能性がある。

サンフランシスコでは賃貸価格の高さのために、政府の「低所得者」の基準値は11万7400ドルと、4人家族の中央値の11万8400ドルにほぼ近くなっている。

基準値以下の家族が自動的に補助金や公営住宅などの政府の支援対象になるわけではないが、支援が必要かの判断する上での要素にはなっている。

お金以上に重要なもの

しかしもちろん、高い質の生活のために高い費用がかかるのはかまわないと、多くの人が考えることも確かだ。

サンフランシスコは確かに生活費が高い場所だが、天候の良さや充実した文化的環境が多くの人をひきつけている。

米国全体を見ても、カリフォルニア州北部のサンフランシスコや南部のサンタバーバラ、あるいはハワイ州のホノルルといった、生活の質が高いと評価される街では、生活費も高くなる傾向にある。

より幅広い意味で、10万ドル以上の収入がある家族が「低所得層」だとするのは正しくないかもしれないが、米国内の生活費が高騰している各都市で、全ての住民に高い生活の質を提供するのは大きな課題だ。

そのためには、まず住居費をより手に届きやすい水準にする方法を検討すべきなのかもしれない。

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この記事について

この分析記事は、BBCが外部の組織で働く専門家に委託して書かれた。

ジェイ・シャンボー教授は、「ハミルトン・プロジェクト」のディレクターで、ブルッキングス研究所・経済調査部門でシニア・フェローを務めている。

ライアン・ナン氏は「ハミルトン・プロジェクト」の政策ディレクターで、ブルッキングス研究所・経済調査部門のフェロー。

ブルッキングス研究所は、政策提言を行うNPOで、社会が直面する諸課題の解決に向けた新しいアイデアを生み出すための研究を行っている。

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