香港長官、改定案撤回を表明 政情不安の沈静化に向け

動画説明, 香港長官、政情不安を鎮める「4つの方策」とは

香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は4日、3カ月に及ぶ反政府デモの発端となった「逃亡犯条例」の改定案を撤回する意向を示した。

今年4月に提出されたこの改定案は、犯罪容疑者の中国本土引渡しを可能にするもの。香港政府は6月に審議を棚上げしたが、撤回はしていなかった。

改正案の完全撤回は、デモ参加者が政府に提示している5つの要求のうちの1つ。林鄭長官はデモ収束を狙い、他にも複数の提案を発表したが、デモ指導者らはそれらを拒否し、抗議を続けるとしている。

高官2人の調査参加を提案

テレビ演説で林鄭氏は、撤回の意向に加え、政情不安を鎮めるいくつかの方策を明らかにした。

そのひとつは、デモに対する警察の対応についての調査に政府高官2人が加わるというもの。デモ参加者に対する警察の暴力をめぐる独立調査も、参加者の要求に含まれている。

反政府デモは過去14週にわたって続いており、警察との衝突も絶えない。

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逃亡犯条例、何が問題なのか

4月に詳細が発表された直後から、改定案は批判を浴びてきた。

反対派は、犯罪容疑者を中国本土に引き渡せるようになると、香港の司法独立が損なわれるほか、香港市民を不公平な裁判や暴力的な扱いにさらすことになると危機感を示している。

また、中国政府の香港に対する影響が高まり、活動家やジャーナリストを標的にするのではないかと指摘している。

改定案には外国からも懸念の声があがっていた。これに対し中国の外務省は、内政干渉だと批判してきた。

「正式に撤回する」

林鄭長官はあらかじめ録画されたテレビ演説で、香港政府は「市民の懸念を完全に和らげるため、法案を正式に撤回する」と述べた。

また、デモは「香港市民にショックと悲しみを与え」たと述べたほか、暴力は「香港を非常に危険な状況へと追いやった」と話した。

「市民が政府や社会にどんな不満を持っていたとしても、暴力では問題は解決できない」

「現時点では暴力を終わらせ、法を継続し、社会秩序を再建するのが最優先だ。政府は暴力と不法行為に断固として立ち向かう」

林鄭氏は今後、政府高官らと共に香港の各地域を訪問し、市民と直接、問題について話し合うつもりだと述べた。

発表への反応は?

親中派の葉劉淑儀(レジーナ・イップ)議員はBBC中国語の取材で、林鄭氏の発表は「前向きな一歩」だと話した。

「全員の心が静まるとは思わないが、平和的なデモ参加者の心に残る疑念を晴らしてくれると期待している」

「一連の抗議は、香港で広がる貧富の差や住環境、政治体系への根深い怒りなど、さまざまな理由で加速した。行政長官が市内で直接、市民と対話すると言っていたのを喜ばしく思う」

一方、民主派の政治家、胡志偉氏は、林鄭氏の妥協は「フェイク」だと指摘した。

胡氏は、「警察の暴力を止めなくては、抗議は続くだろう」と話した。

林鄭氏の発表に先立ち、民主化運動のリーダーとして著名な黄之鋒氏(ウォン・ジーフン、英語名ジョシュア・ウォン、23)はツイッターで、改定案の撤回は「あまりに足りなく、遅すぎる」と指摘した。

黄氏はツイッターで、「端的に言えば、林鄭月娥はまたも状況を理解せず、そのせいで今回の発表も時機を逸している。彼女は5つの要求全てに言及すべきだ。デモ参加者の起訴中止、デモ参加者を暴徒と呼ばない、警察への独立調査、そして自由選挙!」と訴えた。

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民主化を求める政党・香港衆志(デモシスト)の羅冠聡(ネイサン・ロー)氏はBBCの取材で、今後も抗議活動を続けていくと話した。

「改定案反対運動は、自治権や民主主義への闘いに発展した。これは香港市民の生活を守り、警察権力を制限する運動でもある。だから抗議運動は続くと思う」

人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは、改定案の撤回を歓迎するとした一方、「警察による不要で過剰な権力行使」をめぐる独立調査が「今まで以上に」必要だと指摘した。

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<解説>政府の妥協で抗議は止まるのか ――スティーヴン・マクドネル、BBCニュース(香港)

本人の発言によれば、林鄭月娥行政長官は「逃亡犯条例」改定案に対する香港市民の抗議への対応を間違えたことで、「許されない大混乱」を招いてしまった。

そしてついに、林鄭氏は改定案の撤回を表明した。

林鄭氏については、実際に権力を握っているのは中国政府なので、デモ参加者の要求に応える権限がないのではという憶測が流れていた。

改定案撤回にゴーサインを出すことで、香港の自治はなお有効だということを示すことはできるかもしれない。

しかし、改定案をめぐる議論が長引けば長引くほど、抗議する市民の要求は広がっていく。多くのデモ参加者は今、香港警察への真に独立した調査や、香港での普通選挙実施が認められない限りは、抗議をやめないと話している。

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