バイデン氏、ウクライナへの米軍派遣「検討していない」 ロシア軍への対抗で

Mr Biden (R) with top officials

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画像説明, ロシアのプーチン大統領との会談に臨むバイデン米大統領(右)と米高官(7日)

ロシアがウクライナの国境周辺で軍を増強させ緊張が高まる中、アメリカのジョー・バイデン大統領は8日、ロシアが侵攻した場合に米軍をウクライナに派遣することは「検討していない」と述べた。

バイデン氏は一方で、ロシアが実際に侵攻すれば深刻な結果を招くことになると警告した。

この首脳会談は、ロシアがウクライナの東側国境に沿って大幅に軍を増強させていることを受けたもので、同地域の緊張を緩和させるのが目的だった。

プーチン氏は、ウクライナ政府が挑発していると非難。さらに、北大西洋条約機構(NATO)の東方への勢力拡大と、ロシア周辺への攻撃用兵器の配備を行わない保証を求めた。

ウクライナ政府関係者は、ロシアが来年1月末に大規模侵攻を計画しているかもしれないと警戒を強めている。一方、米政府関係者は、プーチン氏が侵攻を決断したかどうかはまだ明らかではないとしている。

プーチン氏は8日、ウクライナに部隊を進めるかについては言及を避けた。ただ、NATOがロシアに接近するのを黙って見ているわけにはいかないとした。

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武力行使の考え「現時点ではない」

バイデン氏は7日の首脳会談で、「今まで見たこともないような経済的影響」に直面することになると、プーチン氏に明確に伝えたという。

プーチン氏がそのメッセージを理解してくれたと確信していると、バイデン氏は付け加えた。

しかし、今後の軍事行動の可能性について質問が及ぶと、バイデン氏はアメリカの道義的・法的義務は、30カ国で構成されるNATOに加盟していないウクライナには及ばないと述べた。

「アメリカが一方的に武力行使をして、ロシアがウクライナを侵略するのに立ち向かうという考えは、現時点ではない」

バイデン氏はロシアの懸念について議論するために、ロシアと、少なくとも4つの主要なNATO同盟国とのハイレベル会合の実施が、10日までに発表されることを望んでいると述べた。

「強固な対応」を準備

バイデン氏は7日、ロシアがウクライナへ侵攻すれば「強力な経済的およびその他の措置」を講じると述べた。

Joe Biden speaks to Vladimir Putin via video link

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画像説明, ジョー・バイデン米大統領と会談するウラジーミル・プーチン大統領(ロシア・ソチ)

アメリカはどのような「経済的影響」を検討しているのか詳細を明らかにしていない。ただ、ジェイク・サリヴァン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は7日、ロシアとドイツを結ぶ新たな天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」について、アメリカとその同盟国にとって、目標達成のためにとても有用だとした。

同パイプラインは、これまで天然ガスの経由地として利益を得ていたウクライナなどを迂回(うかい)するもの。運用はまだ始まっていない。

ほかにも、ロシアの銀行がルーブルを外貨へ両替することの制限や、国際銀行間通信協会(SWIFT)のグローバル金融システムからロシアを切り離す措置などが検討されていると報じられている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、7日の会談は「何の興奮も」もたらさなかったが、バイデン氏の「揺るぎない支援」に感謝していると述べた。

クリミアや東部ドンバスの兵力増強

ウクライナの国境付近にはロシア兵が9万人以上集結しているとされる。こうしたロシアの動きは、すでに緊張状態にあるロシアとアメリカの関係を悪化させている。

ロシアはこのところ、ウクライナの中でも、特に2014年に併合したクリミアで軍を増強させている。

ウクライナ東部で親ロシア勢力が占領するドンバス地方(ドネツク州とルハンスク州の一部)の近くにも、ロシア軍が集結している。

ロシアの後ろ盾を受ける勢力がウクライナ東部の広い地域を掌握して以降、7年間にわたって紛争が続き、1万4000人以上が死亡している。

動画説明, ロシアが軍部隊増強で緊迫 ウクライナの最前線を取材
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<解説>ロシアはどんな軍事的選択を取りうるのか――ジョナサン・マーカス、英エクセター大学戦略・安全保障研究所

ロシアは、大規模な襲撃からウクライナ東部への侵攻に至るまで、様々なかたちの軍事的選択を取る可能性がある。目的のひとつとして、ウクライナ軍の主要な戦闘部隊を戦場に呼び込んで手痛い敗北を味わわせ、ウクライナ政府に自らの立場を見直させることが考えられる。

敵対的な市民がいる中での領土侵攻には大きなリスクが伴う。ウクライナ部隊は西側諸国の武器や訓練を受けており、2015年以降は軍事力がかなり改善されている。しかしロシア軍の能力もここ数年で向上している。ロシア軍が増強している射撃能力には目を見張るものがある。ウクライナの主権がどうのこのと言ったところで、NATOはウクライナを支援できないし、支援することもないだろう。

それに、武器を追加供給すれば、ロシアが戦争を正当化するのを助けるだけになるかもしれない。

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Eastern Ukraine map
画像説明, ウクライナ(Ukraine)とロシア(Russia)、クリミア半島(Crimea)の位置関係。青色が、親ロシア勢力が支配する「ドンバス地方」