ロシア軍施設で5人爆死 原子力推進式ミサイル実験で事故か
ロシア北部アルハンゲリスク州ニョノクサ近くにある、海軍の海上実験場で8日、爆発事故が発生し、実験作業にあたっていた原子力企業職員5人が死亡した。5人の葬儀は12日、モスクワの東373キロに位置する同国の核兵器開発の中枢である「閉鎖都市」サロフで執り行われた。
ロシアの国営原子力企業ロスアトムは10日、死亡した職員は、原子力エンジンの試験を行なっていたと述べた。技術的な詳細は明かさなかった。
爆発で負傷した他の職員3人は、病院で手当てを受けているという。
放射線レベルが一時急上昇
北極海のバレンツ海上にある実験場から東40キロの街、セベロドビンスクでは、事故後40分間、放射線レベルが急上昇した。
セベロドビンスク市によると、1時間当たり2マイクロシーベルトの高い放射線量が観測された。その後、通常の0.11マイクロシーベルトまで減少した。放射線量の値は小さく、放射線障害を引き起こす恐れはないという。
放射性ヨウ素による内部被ばくを低減する安定ヨウ素剤を備蓄するため、市民らが薬局に殺到した。
1986年のチェルノブイリ原発事故の際、ヨウ素剤を求める声が多く上がった。
ロシアは以前、原子力推進式巡航ミサイル「ブレヴェスニク」(ロシア語でウミツバメの意味)の実験を行なっているが、当局は、今回の悲惨な事故を起こした実験で使用していたシステムについては言及を避けた。
原子力推進式ミサイルを実験か
ロシアや西側諸国の複数の専門家は、今回実験されていたのは、巡航ミサイル「9M730ブレヴェスニク」(NATOコード「SSC-X-9スカイフォール」)とみられると指摘している。
ウラジーミル・プーチン大統領は2018年3月の年次教書演説で、この巡航ミサイルの発射に成功したと明らかにしていた。
ロシアに関する著名なアナリストで、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)研究員の、マーク・ガレオッティ氏は、BBCに対し、原子力推進は、相当な技術的挑戦だと話す。
「時間と巡航ミサイルの重量との問題や、ミサイルから放射線が漏れ出る危険がある」
プーチン大統領によると、「ブレヴェスニク」の原子力推進は、射程範囲を無限にする可能性があるという。
ニョノクサ近くでの実験場では、「ブレヴェスニク」と同等の、核弾頭搭載能力を備えた、別の兵器の実験が行なわれていた可能性もある。
考えられる兵器は以下の通りーー。
- 新型の長距離極超音速対艦巡航ミサイル「ツィルコン」:ロシア軍によると、最高速度は音速の8倍に達する
- 新型の長距離海中ドローン:原子力潜水艦「ポセイドン」に搭載
爆発事故の詳細
ロスアトム幹部で、冷戦時代に水素爆弾の開発が行なわれていた、サロフの原子力センターを率いるヴァレンティン・コスチュコフ氏は、死亡した5人はリスクを自覚し、「非常に厳しい条件」の中で実験を行ってきた「精鋭」であり、「英雄」だと述べた。
国防省は当初、爆発事故について、液体燃料ロケットエンジンの実験中に起きたもので、2人が死亡したと説明していた。犠牲者の詳細は明かしていなかった。
その後ロスアトム側は、海上実験場で行なわれた、「放射性同位体の動力源」に関連する実験で事故が起きたと説明した。
同社によると、実験完了後に突如、出火し、エンジンが爆発した。職員は海に投げ出されたという。
入港禁止、核燃料船の目撃情報も
ロシア国防省は実験に先立ち、実験場の北側に位置する、ドヴィナ湾に入港禁止区域を設けた。この措置は、9月初旬まで続く予定。
ノルウェーのニュースサイト「バレンツ・オブザーバー」は、ロシアの特殊な核燃料運搬船「セレブリャンカ」が、9日に入港禁止区域内で確認されたと報じた。
この船が、爆発で生じた放射性がれきの回収のために配備されたのではないかとの憶測を呼んでいる。
一方で、ドヴィナ湾には地元市民が釣りに訪れることもあり、核燃料が水中に漏れ出た場合を想定した、警戒措置だった可能性もある。
RUSIのガレオッティ氏は、ロシア最先端の潜水艦発射弾道ミサイル「ブラヴァ」が「何年もの間、実験に失敗していた」ことを引き合いに、「ブレベトニクが日の目をみることがあるのかどうか、多くの懐疑的な見方がある」と話す。
「ツィルコン」と「ポセイドン」の計画はもっと進んでおり、ポセイドンの海中ドローンのプロトタイプはすでに完成している。
しかし、ブレベトニク同様、ポセイドンは「終末論的な」兵器だとみられ、全面的な核戦争以外では実践的ではないと、ガレオッティ氏は指摘する。