ウクライナ大統領がNATO加盟は「できない」と見解、市民は食料不足 ウクライナ侵攻20日目

Zelensky

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ロシアによるウクライナ侵攻20日目の15日、首都キーウ(キエフ)では午後8時から35時間の外出禁止令が発令された。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、北大西洋条約機構(NATO)への加盟は「できないと聞いている。これが事実であり、認識しなければならない」と語った。ロシアはかねてから、ウクライナのNATO加盟に激しく反発している。

ウクライナのゼレンスキー大統領はこの日、軍当局者とビデオ会議を行った。その中で、「ウクライナはNATOのメンバーではない。我々はそのことを理解している」などと話し、同国がNATOには加盟できないことを受け入れるべきだと示唆するような場面があった。

ゼレンスキー氏は「(NATOへの)門戸は開かれていると何年も聞いてきたが、加盟できないとも聞いている。これが事実であり、認識しなければならない」とした。

また、「私は国民がこのことを理解し始め、自分たち自身や、我々を助けてくれるパートナーを頼りにしていることをうれしく思う」と述べた。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は侵攻開始前から、ウクライナのNATO加盟を禁止するなどの「安全保障」を西側諸国に要求している。

ゼレンスキー氏の発言は何を意味する

BBCのジェイムズ・ランデール外交担当編集委員は、ゼレンスキー氏の発言はNATOに対する不満を反映したものだと指摘する。

また、ウクライナ政府とNATOの双方が何年も前から認識していた事実、すなわちウクライナが近いうちにNATOに加わる可能性は低いという事実も反映しているという。

ゼレンスキー氏の発言の重要性は、そのタイミングにあるとランデール編集委員は言う。

血なまぐさい戦闘が始まってから3週間がたとうとしている。停戦交渉が続く中、ゼレンスキー氏はウクライナのNATO加盟について、現実を認識すべきだと発言した。そして、ウクライナが「信頼できる」安全保障を得られるよう、「利用可能なコミュニティと(中略)協力の新しい形式」を見つけることの重要性を語った。

このことからゼレンスキー氏は、ウクライナにある種の中立的地位を求めるロシア側との合意に向け、譲歩を示唆している可能性があるともとれる。

一方で、ウクライナのNATO加盟の可能性は枝葉の問題で、プーチン氏の真の懸念は、ウクライナがより西側を重視し、EUや民主主義の拡大を目指すことだと多くのアナリストがみていることも、注目すべき点といえる。

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敗血症と飢えに苦しむ民間人

ロシア軍はウクライナ各地の街などへの砲撃や空爆を続けている。

BBCのウゴ・バシェーガ記者の取材によると、南東部の主要港湾都市マリウポリでは、数百人が大規模公共施設の地下にとどまっている。食料が不足し、多くの人が緊急の医療支援を必要としているという。

「爆弾などの破片が体内に入り敗血症を発症した人もいる」と、戦闘が始まった際にマリウポリを逃れ、街に残った友人と連絡を取り合っている39歳の教師、アナスタシア・ポノマレワさんは話す。「非常に深刻な状況です」。

ポノマレワさんの友人は1日の大半を、ほかの家族と一緒に地下で過ごしている。時折、2階に上がって日光を浴びるが、外に出ることはほとんどない。彼らの自宅は戦闘の影響で安全な状況ではないのだという。中には家が倒壊した人もいる。

A satellite image shows extensive damage seen in Mariupol, Ukraine

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画像説明, ウクライナ・マリウポリ東部の住宅地では、ロシア軍の空爆で火災が発生した

マリウポリ西郊にある集中治療病院のスタッフは、ロシア軍に人質のように扱われていると証言した。

ある職員は、ロシア軍が「近隣の家々から約400人を無理やり病院に連れてきた」、「私たちはここから離れられない」と話した。

マリウポリ地域当局によると、この医療施設はここ数日間の砲撃でほぼ破壊されたが、職員は地下で患者の治療を続けているという。

当局によると、これまでに約2000台の車が人道的避難ルートに沿ってマリウポリを離れた。市議会は2000人以上の市民が死亡したとしている。同市には、侵攻開始以前は約40万人が暮らしていた。

米カメラマンとジャーナリストが死亡

キーウ郊外では、米フォックス・ニュースのカメラマン1人とジャーナリスト1人が、乗っていた車両への銃撃で死亡した。同テレビ局のスタッフが明らかにした。

Cameraman Pierre Zakrzewski (left) and journalist Oleksandra Kuvshinova (seen here wearing a helmet and protective vest)

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画像説明, カメラマンのピエール・シャシェフスキー氏(左)とジャーナリストのオレクサンドラ・クシノバ氏(ヘルメット姿)が死亡した

フォックス・ニュースのスザンヌ・スコット最高経営責任者(CEO)は、カメラマンのピエール・シャシェフスキー氏(55)とジャーナリストのオレクサンドラ・クシノバ氏(24)の死に「胸が張り裂ける思い」だと述べた。

2人と一緒に取材していたベンジャミン・ホール記者は負傷し、病院に搬送された。

東欧3カ国の首脳がキーウ訪問

From L-R: Slovenian PM Janez Jansa, Polish PM Mateusz Morawiecki and PiS leader Jaroslaw Kaczyinski, and Czech PM Petr Fiala

画像提供, Mateusz Morawiecki/Twitter

画像説明, ポーランド・ワルシャワを出発し、15日にウクライナ・キーウ(キエフ)に入った(左から)スロヴェニアのヤネス・ヤンシャ首相、ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相、ポーランドの与党「法と正義(PiS)」党首のヤロスワフ・カチンスキ氏、チェコのペトル・フィアラ首相

こうした中、ポーランド、スロヴェニア、チェコの東欧3カ国の首脳が鉄道でキーウに入った。侵攻開始後に外国首脳がキーウを訪問するのは初めて。3首脳にはポーランドの与党「法と正義(PiS)」党首のヤロスワフ・カチンスキ氏が同行した。

キーウ訪問は、EUが安全保障上のリスクを警告したことを受け、ポーランド側が提案した。

ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相、スロヴェニアのヤネス・ヤンシャ首相、チェコのペトル・フィアラ首相は、ウクライナのゼレンスキー大統領とデニス・シュミハリ首相と会談。モラウィエツキ首相は、ウクライナの首都で歴史がつくられつつあると述べた。

「この場所で、自由は専制政治という世界と闘っている。私たち全員の未来はこの場所にかかっている」と、モラウィエツキ氏はツイート。ウクライナは友人の助けに頼ることができると付け加えた。

ゼレンスキー氏は「力強い」支援の表明に感謝を述べた。

ロシア、米国人宇宙飛行士のロシア宇宙船での帰還に合意

米ロ関係の悪化で、国際宇宙ステーション(ISS)に355日間滞在中の米国人宇宙飛行士マーク・ヴァンデ・ヘイ氏をめぐり、地球への帰還に必要な宇宙船を確保できないのではないかとの懸念が浮上していた。

しかしロシアは、ヴァンデ・ヘイ宇宙飛行士が予定通り、ロシアの宇宙船で地球へ帰還することに合意した。

ヴァンデ・ヘイ氏とロシア人宇宙飛行士2人は30日にソユーズ宇宙船でカザフスタンに着陸する予定。

NASAのプログラム・マネージャー、ジョエル・モンタルバーノ氏は、「マークは間違いなく帰還する。私たちはロシアの同僚たちと連絡を取り合っている。それについて、あやふやなことは何もない」とした。

Mark Vande Hei

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画像説明, 米国人宇宙飛行士マーク・ヴァンデ・ヘイ氏は宇宙空間に、アメリカ人として最長記録となる355日間滞在している

バイデン米大統領、ロシア入国禁止に

西側諸国がロシアにさらなる制裁を加える中、ロシア政府は15日に報復として、ジョー・バイデン米大統領と米政府高官12人に制裁を科した。ロシアへの入国を禁止し、ロシア国内に保有する資産を凍結するのが狙い。

対象となるのは、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官、ジェン・サキ大統領報道官ら。

ヒラリー・クリントン元国務長官とバイデン氏の息子ハンター氏という意外な人物も対象となっている。