仏政府、年金改革法案を強硬採択 抗議デモで警察と衝突

ヒュー・スコフィールド&ロバート・プラマー、BBCニュース(パリ、ロンドン)

Protesters in front of the Eiffel Tower

画像提供, Reuters

画像説明, パリ・エッフェル塔周辺で年金改革法案に抗議する市民

フランス政府は16日、年金改革法案を議会での投票を経ずに強硬採択した。これを受け、パリでは大規模な抗議運動が起こり、警察との衝突も発生した。

年金改革法案は、年金受給年齢を62歳から64歳に引き上げるというもの。ここ2カ月にわたって議論が白熱し、ストライキの引き金にもなっていた。

16日の議会ではこの法案に対する採決が予定されていたが、過半数を獲得する見込みがなかった。

そのため、エリザベット・ボルヌ首相は投票数分前に、法案を強制的に採択できると定めた憲法49条3項を適用すると表明した。

野党議員はこの決定に怒り、多くが首相にやじを飛ばした。国家「ラ・マルセイエーズ」を歌ったり、抗議のプラカードを掲げたりして反対を表明する議員もいた。

極右政党「国民連合」のマリーヌ・ル・ペン党首は、エマニュエル・マクロン大統領の政権に対する不信任案を提出すると述べた。

左翼政党「不服従のフランス(LFI)」のマティルド・パノー党首は、マクロン大統領は議会に対しても国民に対しても正統性を持たないまま、フランスを政府危機に陥れたとツイートで指摘した。

Members of the French parliament hold placards and sing the Marseillaise

画像提供, REUTERS/Pascal Rossignol

画像説明, エリザベット・ボルヌ仏首相が憲法49条3項を適用すると表明すると、野党議員がプラカードを掲げて抗議した
Presentational white space

パリで大規模な抗議デモ

パリでは数千人もの市民がデモに参加し、国家を歌ったり労働組合旗を振ったりして抗議した。

夜になると一部のデモ参加者が警察と衝突した。コンコルド広場では火があがり、盾や警棒を持った警官が催涙ガスを使って、集まった人々を散会させた。

警察はAFP通信の取材に対し、夜までに120人を逮捕したと話している。

労働組合は年金制度変更への反対を表明しており、仏労働総同盟(CGT)は23日にもストとデモを計画していると発表した。

Protester stands with flare by fire during demonstrations in Paris

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画像説明, 発煙筒をかかげる抗議参加者
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こうした怒りを引き起こした憲法上の手続きは、あいまいに思えるかもしれないが、フランス政治の重要な一部だ。

マクロン氏は昨年、年金改革を掲げて2選目を果たした。だが連立与党は議会で過半数議席を持たず、年金改革には野党・共和党の協力が必要だった。

マクロン氏率いる中道政党「再生」の関係者は16日、党議拘束に追われた。一部の議員が造反あるいは棄権することが分かっていたことが、この法案の人気のなさを浮き彫りにしている。そのため、連立与党は憲法の力に頼ることになった。

しかし政府が憲法49条3項を適用すれば必ず、民意を踏みにじったという非難を一身に浴びることになる。

実際、第5共和政の60年超の間に、あらゆる立場の政党がこの条項を使ってきた。そして今回がちょうど100回目に当たる。

もちろん、1980年代の社会主義者ミシェル・ロカール政権や現在のエリザベット・ボルヌ政権のように、この条項は議会で過半数を占めない政権で頻繁に使われる傾向にある。

年金改革の難しさ

ボルヌ首相はこれまでに数回、この条項を適用しているが、公費に関する法案など論争になりにくいものだった。

政府はこの手続きによって負けるかもしれない投票を回避できるものの、野党がすぐに不信任案を提出できるというマイナス面もある。

不信任案が通れば政権は崩壊する。今回も理論上はそうなる可能性があるが、極右と極左、そして多くの保守派野党が一致団結する必要があるため、その確率は低い。

今回の争いによって、フランスは再び改革不可能な国と見られている。欧州各国と比べると、年金受給年齢の変更は劇的とは言い難い。

だが、この年金改革法案はかねて、反対派から「残酷」で「非人道的」で「尊厳を傷つけるもの」と言われてきた。

フランス国民の「気力」は低く、ますます低くなっており、人々は定年退職を将来の明るい話題として捉えている。しかし多くの人が、この政府はそれさえも奪ってしまう金持ちの政府だと感じている。