アンネ・フランク一家の情報をナチスに密告、その人物を特定か=調査

Anne Frank smiles in a black and white photo

画像提供, Ann Frank Museum

画像説明, ナチス・ドイツから隠れていた間にユダヤ人少女アンネ・フランクさんが架空の友人にあてて書いた日記は、死後70年以上を経た今も読まれ続けている

「アンネの日記」で知られるアンネ・フランクさんとその家族の居場所をナチス・ドイツに密告した人物の存在が、最近の調査で明らかになった。

ユダヤ系のアンネさんは第2次世界大戦中、ナチスから逃れて2年もの間、オランダ・アムステルダムの隠れ家で生活していた。しかし1945年、15歳の時にナチスに見つかり、ベルゲン・ベルゼン強制収容所で病死した。

潜伏生活の様子をつづった日記は「アンネの日記」の題で死後発表され、戦時中のユダヤ人の生活を知る一次史料として世界的に有名となった。

今回の調査は、アメリカ連邦捜査局(FBI)の元捜査官が行ったもの。それによると、アムステルダム在住のユダヤ人、アーノルト・ファン・デン・ベルフという人物が、自分の家族を守るためにフランク一家をナチスに「渡した」可能性があるという。

調査には歴史学者など各分野の専門家も参加した。複数の人物の関係性を洗い出すのにコンピューターのアルゴリズムを使うなど、現代の調査技術を駆使し、6年をかけて解明に当たった。

ファン・デン・ベルフ氏はアムステルダムのユダヤ人協会のメンバーだった。この組織は戦時中、ユダヤ人居住地区でナチスの政策を実施する役割を強制されていた。しかし1943年に解体され、メンバーは強制収容所に送られたという。

調査チームは今回、ファン・デン・ベルフ氏が強制収容所には連行されず、平常通りアムステルダムで生活を続けたことを突き止めた。また、協会のメンバーの1人がナチスの情報提供者だった可能性も出てきた。

元FBI捜査官のヴィンス・パンコーク氏はCBSの番組で、「強制収容所送りをそれまで免れていたベルフが、自分たちを守ってくれる材料をすべて失った時、自分と妻の安全を確保するには、知り合いのナチス党員に何か有益なものを提供しなくてはならなかった」と語った。

調査チームは、フランク一家を裏切ったのが同じユダヤ人だったという事実の発覚に、苦しんだと話す。一方で、アンネさんの父オットー・フランク氏が、このことに気づきながらも伏せていたとうかがわせる証拠も入手したという。

過去にこの件を調査した人物の資料から、チームはオットー氏に宛てられた匿名のメモに、アーノルト・ファン・デン・ベルフ氏が裏切り者だと書かれていたのを発見した。

パンコーク氏は、この件が公にならなかったのは、世間の反ユダヤ主義が理由だろうと指摘する。

「(過去の調査担当者は)自分がこの件を取り上げたら(中略)再び(ユダヤ人差別の)火が燃え広がってしまうと考えたのかもしれない」

「しかし、ファン・デン・ベルフ氏がユダヤ人だったというのはつまり、自分が生き延びるため、どうしようもない立場にナチスによって追い込まれていただけだと、そのことを私たちは念頭に置かなくてはならない」と、パンコーク氏は述べた。

オランダ現地紙フォルクスクラントによると、ファン・デン・ベルフ氏は1950年に亡くなっている。

記念博物館「アンネ・フランクの家」は声明で、調査チームの報告に「感銘を受けている」と述べた。

博物館のロナルド・レオポルド館長は、新たな調査が「重要な新情報と素晴らしい仮説を提示した」として、「調査継続に値するものだ」と語った。

同博物館は調査には直接かかわっていないものの、所蔵物などを調査チームに提供したという。

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<解説>アナ・ホリガン、ハーグ特派員

ナチス支配下のオランダは、現地の人たちにとってきわめて暗い時代だ。今回の調査結果は、その中でも特に痛々しい、重要な転換点に関わっている。そのため、大きな驚きの声が聞かれるのも不思議ではない。

ライデン大学のバルト・ファン・デア・ブーム氏は、「誹謗中傷に価するナンセンスだ」と結論付けた。

アムステルダム大学のヨハネス・フインク・テン・カーテ名誉教授(ホロコースト・ジェノサイド研究)は、もしも隠れて暮らしているユダヤ人のリストがあったのなら、現在までに明らかになっているはずだと指摘。調査チームに対し、「これだけ重大で批判的な指摘をするからには、相応に大きい証拠が必要だ」と述べた。

私は先に、アンネ・フランクの家を訪ねた。現在は新型コロナウイルスの影響で一時的に閉館しているが、特別な許可をもらって撮影に入った。

秘密の屋根裏の入り口を隠していた本棚の後ろから、急な階段をのぼっていくと、その静かさに衝撃を受けた。

オランダでは現在、極右が台頭し、社会が分断されている。そしてこの場所でアンネ・フランクは、そう遠くない過去にオランダ社会の一部に向けられた抑圧と偏見を思い出させる。ファシストにのっとられた国がどうなるかも、警告してくれている。

今回の調査結果について疑問視する声はまだあるし、裏切り者の本当の正体はずっと分からないままかもしれないという認識もある。しかし、今回の発表は、人類が暗黒の時代にどんなことができてしまうのかを教える警告、そして教訓になっている。

アンネ・フランクの残したものは、今も生き続けている。

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