竜巻直撃のアマゾン倉庫、「命より生産性優先」と遺族が批判

ルーシー・フッカー、ビジネス担当記者、ニューヨーク

Amazon warehouse damaged in tornado

画像提供, Getty Images

画像説明, イリノイ州エドワーズヴィルのアマゾンの倉庫。屋根が崩れるなど大きな被害を受けた

米ネット通販大手アマゾンの衛生・安全方針に、疑問の声が上がっている。米南部などの6州を襲った竜巻でイリノイ州にある同社倉庫が破壊され、従業員6人が死亡したことがきっかけだ。

「生産性より人命を大切にしていれば、こんなことは起きなかったのに」と、犠牲者の1人の妹はソーシャルメディアに書いた。

アマゾンは竜巻への対応について、同社チームが「迅速に動いた」と主張している。

10日に発生した竜巻はイリノイ州エドワーズヴィルのアマゾンの倉庫を襲い、倉庫の屋根は崩壊した。

アマゾンの広報担当ケリー・ナンテル氏は声明で、同社は従業員の死を「深く悲しんでいる」と述べた。

同僚を助けようと

犠牲者の1人のクレイトン・コープさん(29)は、倉庫が竜巻に襲われる少し前に家族と電話で話をしていた。

クレイトンさんの母カーラさんは、息子に電話で竜巻の接近を知らせたのだという。

「私たち家族は、竜巻がそっち(倉庫)に向かっているみたいだからシェルターに避難したほうがいいって伝えたんです」と、カーラさんは米NBCの系列局KSDKに語った。

海軍での訓練経験のあるクレイトンさんは、まず同僚に危険を知らせたいと言っていたという。

Clayton Cope on a motorbike

画像提供, Cope family

画像説明, クレイトン・コープさんは自分が避難する前に同僚らに危険を知らせたいと家族に伝えたという。写真はオートバイに乗るクレイトンさん

アマゾンをめぐっては現在、適切なシェルターの用意があったのか、従業員は直ちに避難するよう指示されていたのか、そして悪天候の警報が出ているあの夜に、そもそもシフト通りに勤務すべきだったのかといった疑問が投げかけられている。

BBCの問い合わせに対し、アマゾンは声明で、エドワーズヴィルの倉庫が竜巻警報を受けたのは(10日)夜8時6分と同16分で、同27分に竜巻に襲われたと説明。「信じられないほどの速さで起きた」出来事だったとした。

アマゾンは、同社チームが「驚くほど迅速に」対応し、できるだけ多くの従業員やパートナーが「屋内退避場所」にたどり着けるようにしたと主張した。

携帯電話で緊急警報を受信した多くの従業員は、トイレに避難するよう誘導されたという。そのトイレで、貨物運転手のオースティン・J・マキュアンさん(26)は亡くなった。

倉庫で働き始めて3カ月のデイヴィッド・コシアックさん(26)は、「建物に入ると『屋内退避!』という叫び声が聞こえ始めた」と語った。「私たちはトイレにいました。そこに避難させられたので」。

「まるで建物の中を列車が通過するような音でした。天井のタイルが飛んできて、すごく大きな音がしました。倉庫を離れるまで屋内退避させられて、少なくとも2時間半はトイレにいました」

アマゾンによると、竜巻警報を受信した場合、全従業員に「通知し、指定された屋内退避場所に移動するよう指示する」手順になっているという。

チームの大半は「一次指定場所」に避難したが、一部の人は竜巻に襲われた建物の一角に避難していたという。「悲劇的な死のほとんどはこの場所で発生した」と、同社は説明した。

しかし、クレイトンさんの妹レイチェルさんはBBCの取材に対し、兄と両親の会話から、兄やほかの従業員は最初の警告サイレンが鳴った後すぐに避難指示を受けていなかったと理解していると語った。

レイチェルさんはフェイスブックで、アマゾンの衛生・安全への取り組みについて広めてほしいと呼びかけた。

「アマゾンは生産性しか気にしていない。みんなそのことを知っている」

レイチェルさんは、アマゾンが「竜巻がひどくなり始めた時に(従業員を)安全な場所へ連れて行って、事態を真剣に受け止めていれば」兄が死ぬことはなかったと思うと述べた。

「誰もぎりぎりのタイミングで必死にシェルターにたどり着こうなどとはしなかっただろうし、私の兄も、ほかの人がシェルターにたどり着けるよう助けて、自分の命を危険にさらすこともなかったはずなのに」

「こうなったことに対して、アマゾンには責任を取ってほしい。これをきっかけに、企業が従業員の命を真剣に考え、数字以上のものとして扱うようになってほしい」

猛烈な竜巻

10日夜に6つの州を襲った猛烈な竜巻は、322キロ以上の範囲にわたって被害をもたらした。死者は100人近くに上り、家屋や企業に被害が出た。ケンタッキー州メイフィールドのろうそく工場では8人の死亡が確認された。

米国立気象局(NWS)によると、アマゾンの倉庫を襲った竜巻は急速に勢力を増し、最大風速は時速241キロにまで達した。サッカー場ほどの大きさの建物の屋根がはがれ落ち、暑さ28センチのコンクリートの壁が崩落するなどした。

小売・卸売・百貨店労働組合(RWDSU)の代表、スチュアート・アペルバウム氏は、竜巻警報が出ているにも関わらずアマゾンが従業員を働かせたことは「許しがたい」と述べた。RWDSUはアメリカ各地でアマゾン従業員の労組結成を働きかけている。

米労働省は13日、労働安全衛生庁が崩壊した倉庫について調査を開始したと発表した。

動画説明, 築100年の教会が数秒で全壊 米ケンタッキー州襲った竜巻

「従業員の健康を優先すべき」

労使問題が専門の米ラトガース大学のレベッカ・ギヴァン准教授は、企業側には安全な職場を維持する法的義務があるものの、それに違反した場合の罰則は非常に弱いものだと指摘した。

そして、倫理的観点から、企業は「従業員の健康を優先し、配送に少し遅れが出ることを顧客に伝える必要がある、進んでそれを行うべきだ」とした。

さらに、アマゾンがこうした労働者の多くを直接雇用せず、下請け業者を使っていることを挙げ、労働者が10日夜に仕事に呼び出されるべきかどうか、アマゾンが疑問に思わないことにつながった可能性があると付け加えた。

こうした中、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏自身も批判を浴びている。ベゾス氏が保有する宇宙開発企業「ブルー・オリジン」は11日、3回目となる有人宇宙飛行を成功させた。同氏は竜巻被害に関するコメントを発表する前に、地球に帰還した宇宙飛行士の写真を投稿した。

ベゾス氏はその後、「エドワーズヴィルから届いた知らせは悲劇的だ。現地にいる我々のチームメートを失ったことに心を痛めている。彼らの家族や愛する人たちに我々の思いと祈りを捧げます」とツイートした。

アマゾン社は、100万ドル(約1億1350万円)をエドワーズヴィル・コミュニティ財団に寄付するとともに、輸送や食料、水などの救援物資を提供すると発表した。

動画説明, 竜巻に家も教会も工場も破壊され……アメリカ6州で被害