ポーランドにミサイル着弾で2人死亡、ウクライナ防空が原因のようとポーランドとNATO

Smoke rises in the distance, amid reports of two explosions, seen from Nowosiolki, Poland, near the border with Ukraine November

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画像説明, ウクライナとの国境に近いポーランドで黒煙が上がった。写真は現場から約10キロ離れた、ポーランド・ノヴォシオルキから撮影

ウクライナ国境に近いポーランド東部で15日午後、ミサイルが着弾し、2人が死亡した。ポーランド外務省が確認し、ロシア製のミサイルだと発表した。ジョー・バイデン米大統領は記者団に、ロシアから発射されたものではなさそうだと発言。ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領と北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長はそれぞれ16日午後、ウクライナの防空ミサイルが原因との見方を示した。

ポーランド外務省は15日深夜、自国領内で同日午後3時40分に「ロシア製のミサイル」が着弾し、プシェヴォドフ村で2人が死亡したと発表した。誰がミサイルを発射したのかには言及しなかった。ミサイル着弾を受け、ポーランド政府は緊急会合を開き、軍の一部部隊の警戒態勢を強化した。同国は、集団安全保障体制をとる軍事同盟、NATOの加盟国。

これについてポーランドのドゥダ大統領は16日午後、ウクライナの防空システムが原因となった可能性が「かなり高い」と記者会見で述べた。15日にはロシアがウクライナ各地で大量のミサイル攻撃を重ねており、ウクライナは防空システムで迎撃し続けていた。

ドゥダ氏はこのほか、ポシェヴォドフ村での爆発に意図的な攻撃の様子はなく、「不幸な事故」だったのだろうと述べた。

ドゥダ大統領は16日未明の時点では、「誰がこのミサイルを発射したのか、現時点では決定的な証拠は何も得ていない(中略)おそらくロシア製のミサイルだが、すべては現在調査中だ」と話していた。

ポーランドでの爆発について記者会見するストルテンベルグNATO事務総長(16日、ブリュッセル)

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画像説明, ポーランドでの爆発について記者会見するストルテンベルグNATO事務総長(16日、ブリュッセル)

NATOのストルテンベルグ事務総長も同日午後に記者会見し、ポーランドでのミサイル爆発が「意図的な攻撃」だった「様子はない」と言明。「ロシアがNATOに対して軍事攻撃行動を準備しているという兆候もない」と述べた。

事務総長も、ポーランドでの爆発は「おそらく」ウクライナの防空ミサイルが原因だとした上で、「しかし究極的な責任はロシアにある。ウクライナに対して違法な戦争を続けているのはロシアなので」と非難した。

ポーランド警察は爆発現場の写真を公表した(16日、ポーランド東部プシェヴォドフ村)

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画像説明, ポーランド警察は爆発現場の写真を公表した(16日、ポーランド東部プシェヴォドフ村)
ミサイルが爆発した現場近くを調べるポーランドの警察

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画像説明, ミサイルが爆発した現場近くを調べるポーランドの警察
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ベルギーのルドヴィヌ・デドンデ国防相も同日、「現在の情報によると、ポーランドでの着弾はウクライナによる防空の結果のようだ。ロシアのミサイルの破片とウクライナの迎撃ミサイルがポーランドに落下したとされている。今後の調査で確認される」とツイートした。

ウクライナ政府は、自国の防空システムがポーランドでの今回の事態の原因との指摘を否定していた。

ロシア製のミサイルは、ロシアとウクライナの双方が使用している。今回のミサイルについて、誰が発射してどのようにポーランドへ到達したのかはまだ不明だが、ロシア製と確認されれば、ロシア製ミサイルが、NATO加盟国の領内に着弾するのはこれが初めてとなる。

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ロシアが異例のアメリカ称賛

一方、バイデン米大統領は16日朝、「ロシアから発射された軌道ではなさそうだ」と発言した。

これを受けてロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官は16日午前、毎日定例の記者会見で、ポーランドをはじめ「たくさんの国が」「ヒステリック」に反応し、何の証拠もないままロシアを糾弾(きゅうだん)したと非難。そのうえで、「アメリカ側とアメリカ大統領の、抑制的ではるかにプロフェッショナルな反応は、特筆に値する」と称賛した。

ロシア国防省も同日、ウクライナでの直近の砲撃はウクライナ国内の標的のみを目標としたもので、ポーランド・ウクライナ国境からは少なくとも35キロは離れていたと説明した。

国防省のイーゴリ・コナシェンコフ報道官はさらに、ポーランドの村に「『ロシアのミサイル』とされるものが落下したこと」は、「状況のエスカレーションをねらった意図的な挑発行為だ」と述べた。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領、イギリスのリシ・スーナク首相、カナダのジャスティン・トルドー首相もそれぞれ、事実関係を完全に理解するため十分に調査する必要性を強調した。

G20サミットで緊急協議

インドネシア・バリで開かれていた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では16日朝、この事態について西側諸国が緊急会合を開いた。

現地で取材するBBCのクリス・メイソン政治編集長によると、ポーランドでの事態によってこの日の予定があらかた変更となった。各国首脳はポーランド政府や自国の国防相や外相としきりに電話で協議していたという。

バイデン米大統領やスーナク英首相をはじめ、複数の西側首脳がポーランド政府と直接やりとりをした。バイデン氏はNATOのストルテンベルグ事務総長とも協議したという。

アメリカ、イギリス、欧州連合(EU)、スペイン、ドイツ、カナダ、フランス、日本、オランダの首脳が急きょ集まり、情勢を協議。ホワイトハウスはこれを「緊急ラウンドテーブル」と呼んだ。

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画像説明, 主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)参加の西側諸国が緊急会合を開いた(16日、インドネシア・バリ島)

ロシアからの発射「ありえなさそう」=バイデン氏

バイデン氏は会合後、ミサイルがロシアによって発射された可能性について記者団に質問されると、慎重に言葉を選びながら「今得ている初期情報からは、それはありえなさそうだと思う。ロシアから発射された軌道ではなさそうだ」と答えた。

その前には記者団に「ウクライナ国境に近いポーランド農村部で起きた爆発について、ポーランドの調査を支持すると合意した。何が起きたのか、確実に正確に把握するようにする。亡くなった2人の遺族にはお悔やみを申し上げる。今後は現場の捜査が続くなか、集団的に次の対応をどうするのかを決める。今日の協議に参加した(西側首脳)全員は、完全に一致していた。ほかにも、ロシアが新たに展開している攻撃について協議した。これは、この戦争を通じてロシアがウクライナの都市や民間インフラに示してきた非人間性をあらわにするものだ」と述べた。

大統領はさらに、「(ロシアが)していることは、まったく言語道断だ」と繰り返し、「世界がG20で集まり、緊張緩和を促した途端、ロシアはウクライナでのエスカレーションを選んだ。会談している最中に。ウクライナ西部に何十ものミサイル攻撃があった」と非難した。

「今この時にウクライナを支援するため、我々はこの紛争の開始当初からそうしてきたように、自衛に必要な能力を与えるため、できる限りのことをする」とも述べた。

バイデン氏はこれに先立ちツイッターで、ポーランドのドゥダ大統領と協議したとして、「ウクライナ東部での人命損失に深いお悔やみを申し上げた。そして爆発についてポーランドの調査を全面的に支援する」として、「(調査の)進展に伴い適切な対応を判断するため、今後も緊密に連絡を取り合う」と書いた。

ウクライナとロシアは

一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は15日夜にツイッターで、「ロシアはどこでも殺す。今日はその手がポーランドに届いた」と、根拠を示さずに書き、「欧州・大西洋地域の集団安全保障への攻撃は、重大なエスカレーションだ」と述べていた。さらに、ポーランドのドゥダ大統領に電話で哀悼の意を伝えたとツイート。真相解明のためドゥダ大統領と情報を交換していると書いた。

これに対してロシア国防省は、「ウクライナ・ポーランド国境近くの標的を、ロシアの破壊手段が攻撃した事実はない」と発表。ロシアのミサイル攻撃だとする情報は「状況を悪化させるための意図的な挑発行為」だと非難した。

ロシア国営メディアは、ポーランドに着弾したのはウクライナのミサイルだと伝えた。

ロシアはこの日、ウクライナの首都キーウをはじめウクライナ各地に大規模な砲撃を展開していた。ウクライナ空軍によると、着弾は90発以上で、70発以上を迎撃したという。

爆発のあったポーランドの現場に駆け付けた警官たち

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画像説明, 爆発のあったポーランドの現場に駆け付けた警官たち

G7が共同声明

欧州委員会は主要7カ国(G7)の共同声明を発表した。米・英・EU・カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・日本の各政府はその中で、「ロシアが15日にウクライナの都市や民間インフラに対して実施した、野蛮なミサイル攻撃を非難する」とした。

さらに、ポーランド東部の爆発についてポーランドの調査を支援するとした上で、「ロシアの侵略を前にウクライナとウクライナの人たちを引き続き、断固として支持するとあらためて確認し、ウクライナのコミュニティーへのロシアの恥知らずな攻撃について、引き続きロシアを糾弾し続ける」と表明。

「ポーランドとウクライナの犠牲者の家族に、我々は追悼の意を表する」とも述べた。

ポーランド首相は国民に平静呼びかけ

ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は16日未明、政府の緊急会合後、「すべてのポーランド国民に呼びかける。この悲劇を前に、平静を保ってもらいたい。(中略)落ち着いて、慎重でいる必要がある」と述べた。

首相はさらに、ポーランド軍が対空監視を強化すると話した。

「ポーランド軍の一部部隊の臨戦態勢を上げることにした。とりわけ、空域の監視に力を入れる」と、首相は記者団に述べた。

動作不良か迎撃でそれたか

インターネットで拡散されている画像には、ポーランドの現地メディアが同国内の農地だとする場所に、ミサイルの着弾痕とみられる大きな穴が開いている様子が写っている。別の画像では、ミサイルの一部のようなものが写っている。

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BBCはこれらの写真を検証できていないが、3人の国防専門家に意見を聞いた。

米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン氏は、S-300システムの一部かもしれないと話す。この種類のミサイルは通常、地対空攻撃に使用され、今回の戦争を通じてロシアとウクライナの双方が使用している。

米シンクタンク外交問題評議会の安全保障専門家、J・アンドレス・ギャノン氏も、S-300システムかもしれないと同意する。

「これは防空システムだが、それでもロシアが地上攻撃に使っていることは把握している。ウクライナは巡航ミサイルに対する防空手段としても使っている」

英シンクタンク「ルシ」の上級研究員、ジャスティン・ブロンク博士は、S-300の一部だという可能性はあるものの、特定にはまだ証拠不十分だとしている。

BBCのポール・アダムズ外交担当編集委員は、ロシア製のミサイルがポーランドの農地に着弾した理由について、いくつかの可能性を指摘する。ロシアにはポーランドの農場を攻撃する理由がないため、何らかの動作不良だった可能性がある。あるいは、この日はロシア軍がウクライナに大量のミサイルを放ち、ウクライナがそれを次々と迎撃していたため、その迎撃によってロシアのミサイルがそれてポーランドに着弾した可能性もあるという。

<解説> 意図的な攻撃には見えない――フランク・ガードナーBBC安全保障担当編集委員

ポーランド国境のすぐ近くの標的めがけてロシアがミサイルを撃ち、それをウクライナの防空システムが迎撃しているとあっては、いつかこうした事態が起きるのは時間の問題だったのかもしれない。

ミサイルが国境のポーランド側に落ちたのはもちろん、気がかりな展開だ。ポーランドにとってだけでなく、ロシアの国境沿い、そしてウクライナの西側国境沿いにあるすべての国にとって。

モルドヴァはすでに、自分たちの国境近くでロシアのミサイルが発射されていることの影響を問題している。

しかしここで大事なのは、意図した目標が何だったにせよ、ミサイルを発射したのは誰か、という点だ。

そしてこれまでのところ、ロシアがウクライナ国境を越えた何かをわざと狙っていたと示すものは、何もない。

そのようなことをすれば、NATO条約の第5条発動に至りかねないと、ロシア政府は承知している。もしそうなれば、NATO全体がポーランド防衛に乗り出す。

NATOは、そのような状態を望んでいない。ましてや前日には、ロシアとアメリカの情報機関首脳たちが会談し、この戦争の不要なエスカレーションを避けるにはどうすべきか、協議していたばかりだ。

ウクライナにとって不可欠な防衛用の武器や装備の大半は、ポーランドを経由する。それが意図して標的とされれば、事態は変わる。

しかし、今回はそういうことではなさそうだ。