米エネルギー省、核融合技術で「画期的進歩」 投入量上回るエネルギーを出力

Interior of the target chamber, where fusion takes place

画像提供, Philip Saltonstall

画像説明, ローレンス・リヴァモア国立研究所にある、レーザーの照射によって核融合を起こすターゲットチェンバー

米エネルギー省は13日、核融合エネルギー開発で画期的な進歩があったと発表した。クリーンエネルギーをほぼ無限に得られる可能性があるとして、物理学者たちが数十年にわたって追求してきた技術が実現したという。

研究者たちによると、核融合のために投入したエネルギーよりも多くのエネルギーを出力させることに初めて成功した。

ただ、複数の専門家は、核融合が一般家庭用の電力を供給できるようになるにはまだ課題があるとしている。

実験はカリフォルニア州のローレンス・リヴァモア国立研究所(LLNL)にある国立点火施設で行われた。

LLNLの所長キム・ブディル博士は、「これは歴史的な偉業だ。(中略)過去60年間、何千人もの人々がこの取り組みに貢献し、ここに到達するための確かな展望があった」

エネルギー生産の「聖杯」

核融合はエネルギー生産の「聖杯」と言われる。軽い原子核同士を強制的に結合させることで、大量のエネルギーを放出させる。太陽などの星も同じ現象で、エネルギーを生み出している。

一方で核分裂は、重い原子核が分裂する現象で、原子力発電所で用いられている。しかしその過程で多くの放射性廃棄物が発生し、長期にわたって放射能を放出し続けることから、安全に保管する必要がある。

核融合でははるかに多くのエネルギーを生み出せ、短期的な放射性廃棄物の量は少量に抑えることができる。また、このプロセスでは温室効果ガスが排出されず、気候変動への影響がないことも重要なポイントだ。

ただ課題もある。原子核を結合させ、それを維持するには超高温・高圧の核融合炉が必要となる。

投入分を上回るエネルギー

LLNLの国立点火施設には米政府が約35億ドルを投じている。

ここではコショウの実ほどの大きさのカプセルに極少量の水素を投入し、192本の強力なレーザーを使って水素燃料を加熱・圧縮する。

レーザーは非常に強力で、カプセルを太陽の中心温度よりも高い摂氏1億度まで加熱し、地球の大気圧の1000億倍以上に圧縮する。

米エネルギー省の国家核安全保障局の防衛プログラム担当副長官マーヴィン・アダムズ博士は、今回の実験でレーザーで2.05メガジュール(MJ)のエネルギーを加え、3.15MJの核融合エネルギーが出力されたと説明した。

「画期的進歩の瞬間」

英インペリアル・コレッジ・ロンドンのプラズマ物理学教授で、慣性核融合研究センターの共同ディレクターのジェレミー・チッテンデン氏は「真の画期的進歩の瞬間」が訪れたとした。

「核融合の『聖杯』と呼ばれ、長年追求されてきた目標が、本当に達成可能だと証明している」

世界中の物理学者が同じように感じ、国際的な科学コミュニティーによる大仕事を称賛している。

英オックスフォード大学のジャンルカ・グレゴリ物理学教授は、「今日の成功はアメリカ、イギリスをはじめ世界中の多くの科学者による取り組みのうえに成り立っている。今回、点火に成功したことで、核融合エネルギーが解放されただけでなく新しい科学への扉が開かれた」と述べた。

実用化へのハードル

LLNL所長のブディル博士は、核融合が発電所で使われるようになるのはいつ頃かと問われると、まだ大きなハードルが残されていると答えた。「努力の結集、投資、数十年の基礎技術の研究によって、発電所の建設が可能になるだろう」。

科学者はかつて、実用化には50〜60年かかるとの見方を示していた。その頃と比べると進歩だ。

今後の主なハードルの1つは、コストを抑えながらエネルギー出力の規模を拡大することだ。

今回の実験では、やかん15〜20個ほどを沸騰させる程度のエネルギーを生成するのに数十億ドルが投じられた。

また、レーザーによって投入したエネルギーよりも多くのエネルギーを取り出すことができたが、レーザーの作動に必要なエネルギー分は差し引かれていない。レーザーの作動には水素が作り出したよりもはるかに大きなエネルギーが必要だった。