【解説】 ロシアの主張に耳を傾ける国々 ウクライナ侵攻

フランク・ガードナー安全保障担当編集委員

Russia's President Vladimir Putin disembarking upon his arrival in Beijing on February 4, 2022, ahead of his meeting with China's president and the opening ceremony of the 2022 Winter Olympic Games

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画像説明, 2022年の北京冬季五輪に先立ち、中国を訪問したロシアのウラジーミル・プーチン大統領

「ウクライナと、イギリスなどの同盟国はこの1000年間、ロシアを脅している。北大西洋条約機構(NATO)をロシア国境まで移動させ、我々の文化を消し去ろうと、長年にわたって私たちをいじめている」

これは、ロシアの国会議員で著名なテレビ司会者でもあるエフゲニー・ポポフ氏が4月19日、BBCのポッドキャスト番組「ウクライナキャスト」に出演した際に述べた言葉だ。

「もちろん、NATOのウクライナでの計画は、ロシア国民にとって直接的な脅威となっている」と、ポポフ氏は付け加えた。

ポポフ氏の見解は、ロシア政府の発表している文脈が西側の見方とは全く異なるという点において、驚きと発見に満ちていた。欧州を含む西側諸国の耳には、こうした主張はほとんど理解不能に聞こえるし、慎重に文書化された証拠をあからさまに無視するものだとさえ思える。

しかしこれは、ロシア国内の政府支持者たちだけでなく、世界の他の場所にいる人々も抱いている信念の一部に過ぎないのだ。

ロシアが2月24日にウクライナへの侵攻を開始してから1週間後、国連は総会で緊急投票を行った。国連加盟193カ国のうち141カ国がロシアを非難する票を投じた。一方で、中国、インド、南アフリカを含む多くの主要国は棄権を選択した。

つまり、西側諸国の指導者たちが、この破滅的な戦争の責任はすべてロシアにあるというNATOの見解を全世界が共有していると信じているとしたら、それは妄想に過ぎないのだ。

では、なぜ多くの国がロシアの侵攻についてどっちつかずの態度でいるのだろうか?

そこには経済的、軍事的な利己主義から、植民地時代の過去についての欧州の偽善に対する非難まで、さまざまな理由がある。一概には言えない。どの国にも、ロシアを公に非難したり、ウラジーミル・プーチン大統領を疎外したりしたくない、特別な理由があるのだろう。

協力に「限界はない」

まずは中国から見てみよう。世界最大の14億人の人口を抱えるこの国では、国民の大半がロシア人と同様、ウクライナに関するニュースを国営メディアから得ている。

2月24日にウクライナ侵攻が始まる直前、中国は北京で開催した冬季オリンピックに注目の訪問客を迎えた。プーチン大統領だ。中国はその後に出した声明で、「両国の協力に限界はない」と述べている。

では、プーチン氏は中国の習近平国家主席に、ウクライナへの本格的な侵攻をひそかに伝えたのだろうか? 「そんなことは決してない」と中国側は言っているが、このような重要な隣人に、これから起こることについて示唆を与えなかったとは、到底想像ができない。

中国とロシアは、いつか戦略的ライバルになるかもしれない。しかし現在はパートナーであり、NATOや西側諸国、その民主的価値観に対して、敵対に近い軽蔑の念を共有している。

中国はすでに、南シナ海への軍拡をめぐってアメリカと衝突している。また、ウイグル族の扱いや香港での民主主義の抑圧、さらに必要なら武力で「台湾を復帰させる」という度重なる誓約をめぐり、西側諸国と衝突している。

A protester holds a Russian flag during a demonstration organised by the pan-Africanist platform Yerewolo to celebrate France's announcement to withdraw French troops from Mali, in Bamako, on February 19, 2022

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画像説明, 2022年2月にフランス軍がマリからの撤退を発表した時、フランスに抗議する人々はロシアの国旗を掲げて撤退を祝った

中国とロシアはNATOの加盟国に共通の敵を持ち、両政府の世界観は両国の国民に浸透している。その結果、ロシアの侵略と戦争犯罪疑惑に対する西側の嫌悪感を、両国は単に共有していないのだ。

インドパキスタンにも、ロシアと敵対したくない独自の理由がある。インドはロシア政府から多くの武器を調達している。また、最近になってヒマラヤ山脈で中国と衝突した後、インドはいつか同盟国として、また保護国としてロシアを必要とする日が来るかもしれないと考えている。

一方、最近失脚したパキスタンのイムラン・カーン前首相は、西側諸国、特にアメリカを激しく批判している。パキスタンはロシアから武器も受け取っており、国の北側、中央アジアへの貿易ルートを確保するために、ロシア政府の威光を必要としている。カーン氏はロシアがウクライナに侵攻した2月24日、事前に計画していたプーチン大統領との面会を実行した。

インドとパキスタンは、国連で行われたウクライナ侵攻の非難決議でともに棄権している。

偽善とダブルスタンダード

そして、特にムスリム(イスラム教徒)が大多数を占める国々では、西側諸国に対するある非難が共有されている。世界で最も力のあるアメリカに率いられている西側諸国が、偽善と二重基準(ダブルスタンダード)の罪を犯しているというものだ。

2003年、アメリカとイギリスは、国連や世界の多くの世論を無視して、偽りの理由でイラクに侵攻し、何年にもわたって暴力をはびこらせた。両国はまた、イエメンの内戦を長引かせる手助けをしていると非難されている。イエメン政府を支援するために頻繁に空爆を行っているサウジアラビア王立空軍に武器を提供しているためだ。

さらにアフリカの多くの国々には、もっと歴史的な理由がある。ロシアはソ連時代、サハラ砂漠から南アフリカに至るアメリカと西側の影響力に対抗するため、アフリカ大陸に武器を提供した。その中には、19世紀から20世紀にかけての西欧の植民地化の遺産として、西側に対する恨みが今日まで続いている地域もある。

フランスは2013年、旧植民地のマリに、国際テロ組織「アルカイダ」による占領を防ぐため軍隊を投入した。しかし、同国ではフランスの人気は高くない。フランス軍が撤退した後は、ロシア政府が援助している軍事会社ワグネル・グループが取って代わった。

Russia's President Vladimir Putin (R) and Saudi Arabia's Crown Prince Mohammed bin Salman attend the G20 Leaders' Summit in Buenos Aires, on November 30, 2018

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画像説明, 2018年のG20サミットで歓談するサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(左)と、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領

では、中東諸国はどんな立場を取っているのか?

まず、シリアがロシアの侵攻を支持していることに驚きはない。バシャール・アル・アサド大統領は、2015年に同国がイスラム武装組織「イスラム国(IS)」に占領される危機にさらされて以来、政権維持においてロシアに大きく依存している。

一方で、サウジアラビアアラブ首長国連邦(UAE)といった長年の西側の同盟国も、国連の非難決議には賛成票を投じたものの、ロシア非難という点では比較的、声を潜めている。UAEの実質的な指導者であるムハンマド・ビン・ザーイド皇太子(アブダビ首長国)はプーチン大統領と親しい間柄にあり、前任の駐ロシア・UAE大使は、プーチン氏と狩りに行ったことがあるという。

また、サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子とジョー・バイデン米大統領の関係がほぼ機能不全に陥っていることにも留意しておくべきだ。双方が互いに嫌っており、電話を取ることも拒否していると報じられている。

またそれ以前、2018年末にブエノスアイレスで開催された主要20カ国(G20)首脳会議(サミット)では、ほとんどの西側諸国の指導者がムハンマド皇太子を冷遇していた。サミットの数週間前、トルコのサウジ総領事館内でジャーナリストのジャマル・カショジ氏が殺害された事件に、同皇太子が関わったとの非難が起きていたからだ。しかしプーチン氏は対照的に、ムハンマド皇太子とハイタッチを交わした。このことを、サウジの実質的な指導者が簡単に忘れるはずがない。

こうした事実があるからといって、ベラルーシを除く各国がロシアの侵攻を積極的に支持していることにはならない。3月2日の国連決議でロシアを支持したのは、同国とシリア北朝鮮ベラルーシエリトリアの5カ国だけだった。

しかしここから分かるのは、さまざまな理由から、西側諸国はそのプーチン大統領に対する見方や制裁措置、そしてウクライナにこれまで以上に致命的な武器を供給し、ロシアの侵略に公然と立ち向かうという姿勢を、他の国々も共有していると思ってはいけないということだ。