「公衆衛生上の大失敗」 英政府のパンデミック対策、議会委員会が報告書
ニック・トリグル、保健担当編集委員
イギリス議会の超党派グループは12日、政府の新型コロナウイルス対応について報告書を発表した。パンデミック初期に十分な感染対策を怠ったことが、過去最大級の公衆衛生の失策につながったと指摘した。
報告書によると、英政府は当初、状況を管理し、市民の感染を通じてむしろ集団免疫を獲得しようというアプローチをとっていた。この方針は、科学者にも支持されていた。
しかしその結果、最初のロックダウン開始時期が遅れ、犠牲者を増やしたと述べている。
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一方で報告書は、政府はワクチン関連の対策では成功を収めたと称賛。研究・開発から接種事業に至るまで、「イギリス史上最も有効な取り組みのひとつだった」と結論付けた。
イギリスの新型コロナウイルス対策
2020年
- 1月31日:イギリスで最初の感染が発覚
- 3月23日:全国的なロックダウン開始
- 5月28日:イングランドで検査・追跡プログラム開始
- 11月5日:イングランドで4週間のロックダウン
- 12月8日:ワクチン接種開始
2021年
- 1月4日:イングランドで新たなロックダウン開始
- 3月20日:成人の半数が1回目のワクチン接種完了
- 7月19日:イングランドで感染症対策の法的規制が終了
この報告書は、保健・社会福祉委員会と科学・技術委員会が取りまとめたもの。両委員会とも、全政党から委員を選出した。
150ページにわたる報告書は、パンデミック中の政策におけるさまざまな成功や失敗を取り上げている。
イギリスではこれまでに新型ウイルスで15万人以上が亡くなっており、委員会はここ100年の「平和期における最大の難局」だったと表現している。
委員長を務めた保守党のジェレミー・ハント議員とグレッグ・クラーク議員は、パンデミックの本質として「対策をすべて成功させるのは不可能だ」と語った。
両議員は声明で、「イギリスは大きな成功を収め、大きな過ちを犯した。どちらからも学ぶことが重要だ」と述べた。
政府の報道官は、パンデミックから学んだことは多く、来年に公開調査が行われるのもそのためだと述べた。
「我々は人命と国民保健サービス(NHS)を守るため、法的な制限やロックダウンを課すなど、迅速かつ決定的な行動を怠ったことはない」と、政府報道官は話した。
「国民全体の協力によって、NHSの逼迫(ひっぱく)を防げたことに感謝している」
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一方、最大野党・労働党のジョナサン・アッシュワース影の保健相は、報告書は「大変手厳しい」もので、いかに「途方もない過ち」が重なったのかを示すものだと述べた。
また、「正義を求めるCOVID-19遺族の会」は、両委員会が遺族とまったく接触しなかったことを批判した。
今回の報告書では、ウェールズと北アイルランド、スコットランドの各自治政府が個別に行った施策については調査していない。
ロックダウンの遅れは間違い、科学者にも責任
イギリスで新型コロナウイルスが流行した際、政府は感染を抑止するのではなく、感染を管理するアプローチをとった。報告書はこれを、感染による集団免疫と呼んでいる。
報告書によると、これはインフルエンザのパンデミック対策に基づいたアプローチで、政府の新型ウイルス対策を策定している非常時科学諮問委員会(SAGE)の助言を受けたものだったという。
しかしこの案は、自治政府を含め閣僚たちが十分に内容を問いただすこともなく実施されたため、「集団浅慮」に陥っていたことがうかがえる。
中国やイタリアの事例からは、新型ウイルスは感染力が非常に高く、重症化しやすく、治療法がないことが分かっていた。それでもイギリスは集団免疫を目指したため、パンデミックの初期には感染を食い止める施策がほとんど行われなかった。
両委員会はこれについて、「イギリス史上、最も重要な公衆衛生上の失敗のひとつ」だと指摘している。
SAGEによる助言は2020年3月16日に変更されたが、全国的なロックダウンの発表はこのわずか1週間後のことだった。
報告書では、この段階で初期のアプローチすべてが間違っており、死者増加を招いたことが明らかになったと述べている。
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また、2020年秋に科学者が助言した2週間の「サーキットブレーカー(短期間の厳格なロックダウン)」施策の実施を、イングランドの閣僚が拒否したことにも触れている。
報告書は、サーキットブレーカーを実施していれば昨年11月のロックダウンは防げたのかは、今となっては分からないとしている。なお、ウェールズでは昨年10月にサーキットブレーカーが実施されたが、その後、ロックダウンとなった。
検査・追跡システムは「遅延と混乱の中で」始まった
イギリスがCOVID-19検査を開発したのは2020年1月で、世界でも最速の部類だった。しかし、それをパンデミックの初年度に効果的な検査・追跡システムに落とし込むことには失敗した。
市中での検査は2020年3月にはいったん中止となり、最初の流行の波が襲った数週間は、検査対象は入院患者のみに限られた。
NHSの検査・追跡システムがイングランドで導入されたのは同年5月だったが、報告書は導入が「遅く、見通しも立たず、大抵は混乱していた」と指摘した。
検査・追跡の仕組みは一極に集中しすぎており、地方自治体の公衆衛生チームの専門知識が生かされるようになったのは、後のことだったという。
一方で、当時のマット・ハンコック保健相が、2020年4月末までに1日10万件の検査を実施すると目標を掲げたことを称賛。これがシステムの活性化に一役買ったと述べている。
ワクチン接種事業やその他の成功
この報告書はとりわけ、政府のワクチン接種事業と、政府が英オックスフォード・アストラゼネカ製ワクチンを含むさまざまなワクチン開発を強力に後押ししたことを、きわめて高く評価している。
報告書は、一連の支援体制は史上最も効果的だった政策の一つで、最終的には国内外で数百万人の命を救うことになるだろうと述べている。
特に政府の首席科学顧問を務めるサー・パトリック・ヴァランスの提言を受け、ワクチンをめぐる作業部会が早期に設立されたことが重要な一歩だったと、報告書は指摘する。この作業部会には、委員長を務めた投資家デイム・ケイト・ビンガムの「大胆なリーダーシップ」のもと、科学者とNHS、民間セクターの専門家が結集した。
またステロイド系抗炎症剤「デキサメタゾン」など、政府の援助を受けた臨床試験「リカバリー・トライアル」を通じたCOVID-19治療薬の開発においても、イギリスの対応が真に世界をリードしていると、報告書は評価している。
さらに、病院の集中治療の能力を拡大し、治療を必要とする人たちを受け入れる体制を整えたことでも、NHSと政府の対応を称賛した。
少数者により大きな負担
報告書では、パンデミックによって社会や経済、そして保健面での不平等が悪化しており、対策が必要だと指摘。特に、民族的少数者や学習障害のある人、自閉症患者の死亡率が、「受け入れがたいほど高い」と述べた。
民族的少数者については生物学的な理由も考えられる一方、ウイルスにさらされやすい住宅や職場環境にあるなど、さまざまな要因が指摘されている。
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また、感染対策による制限が学習障害を持つ人たちに与える影響が考慮されておらず、新型コロナウイルス以外でも治療を受けにくい影響が出ていたという。蘇生措置拒否も不適切に使われていた。
パンデミック初期には、介護施設を優先する施策も欠けていた。適切な検査や隔離をせずに、入院患者を早々に退院させ、介護施設に帰らせていたことなどがこれに当たる。
こうした施策と、検査を受けていない施設職員がウイルスを家に持ち帰ったことにより、死者が何千人も増えたと考えられている。
「正義を求めるCOVID-19遺族の会」は、この報告書は多くの人にとって「公然の侮辱」に価すると批判した。
遺族の会のハナ・ブレイディー広報担当は、「この報告書は笑止の至りだ。COVID-19で両親やパートナー、子供を亡くした人々の経験よりも、政府の緊急治安特別閣議(COBRA)にパソコンを持ち込めるかといった政治的な議論に注目している」と述べた。