仏独首脳、プーチン氏にゼレンスキー氏との直接対話促す

Russian President Vladimir Putin sits opposite a Russian flag

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画像説明, プーチン氏は仏独首脳と電話で80分間にわたり会談した

フランスとドイツの首脳は28日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話で会談し、ウクライナの大統領と「真剣な直接対話」をするよう強く促した。さらに、世界的な食料価格高騰の中、ウクライナに滞留する大量の穀物などを出荷できるよう、南部の主要港オデーサの封鎖解除を求めた。ドイツ首相府が公表した。

ドイツ首相府によると、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、80分にわたりプーチン氏と電話で会談。「ただちに停戦し、ロシア軍をウクライナから引き上げる」よう促したという。

これに対してプーチン氏は、ロシアにはウクライナとの対話を再開する用意はあると答えたという。ロシア大統領府が明らかにした。ただし、プーチン大統領が、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と直接対話する可能性があるのかについては、ロシア政府は言及しなかった。

ウクライナのゼレンスキー氏はこれに先立ち、自分はプーチン氏との直接対話に「前向き」ではないものの、紛争終結には必要だと述べている。ロシアとウクライナの両代表団は2月24日の軍事侵攻開始以来、複数の協議を重ねたが、進展は得られていない。

戦争捕虜の解放も促す

A drone image shows destroyed facilities at the Azovstal Iron and Steel Works in the southern port city of Mariupol, Ukraine

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画像説明, ロシア軍の徹底的な攻撃で破壊されたアゾフスタリ製鉄所

フランスとドイツの両首脳はさらにプーチン氏に、ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所で戦争捕虜となった約2500人のウクライナ兵を開放するよう呼びかけた。

ロシア軍は今月20日、ウクライナの部隊が長く立てこもっていたアゾフスタリ製鉄所で、全面勝利を宣言。最後まで残っていた兵について、ロシア側は投降したと言い、ゼレンスキー氏はこれについて軍が離脱を認めたのだと話していた。

ロシアはこれまでに、投降した兵のうち900人以上を、ロシア支配下ドネツク地方のオレニウカ村で再開した捕虜収容所に移送したと説明している。負傷兵はドネツクのノヴォアゾウスクにある病院に収容したという。

ウクライナ側は、捕虜交換による送還を希望しているが、ロシア側は態度を明示していない。ロシアの国会議員は17日、アゾフスタリで拘束したウクライナ・アゾフ連隊の、国際法上の権利が保障されている通常の戦争捕虜でなく、「ナチスの犯罪者」として扱う計画を提示。犯罪者として裁判にかけ、場合によっては処刑するよう求めている。

民兵組織として2014年に発足したアゾフ連隊は、現在は国家警備隊の一部だが、かつては極右とのつながりがあった。

穀物の出荷を

マクロン氏とショルツ氏は加えて、ウクライナに滞留する穀物を国外へ出荷できるようにするため、黒海に面するオデーサ港の封鎖解除をプーチン氏に求めた。

ロシア政府によると、プーチン氏は世界的食糧危機の危険に取り組むため可能な選択肢を検討すると答えたものの、まずは西側がロシアへの制裁を解除するよう要求した。

プーチン氏はさらに、仏独両首脳に対し、ウクライナへの武器供与をこれ以上増やせば、情勢はさらに不安定なものになると警告したという。

国連はすでに、ロシアによるウクライナ侵攻のため、今後何カ月かのうちに世界的な食料不足が発生し、何年も続く恐れがあると警告している。

ウクライナ侵攻開始から、すでにトウモロコシや小麦といった穀類のほか、食用油の供給量が世界的に減少し、代替品の価格が急騰している。国連によると、世界全体で食品価格は前年比30%近く上昇しているという。

東部主要都市で市街戦

ウクライナ東部ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ知事によると、東部の主要工業都市セヴェロドネツクでは路上で市街戦が起きている。

ウクライナ支配が続く場所として最東に位置するセヴェロドネツクでは、27日までにすでに外周の3分の2がロシア軍に包囲されていた。

ハイダイ知事は、「完全包囲を避けるため、(ウクライナ軍は)撤退せざるを得ないかもしれない」と話している。

ウクライナのデニス・シュミハリ首相は28日、軍事侵攻開始以来、ロシアは2万5000キロ以上の道路、数百の橋、12の空港を破壊したとBBCに話した。ほかにも、100以上の教育機関、500以上の医療施設、200以上の工場が全壊あるいは被害を受けたという。

シュミハリ首相は、ロシアが破壊したものの修復費はロシアに補償させる必要があると述べ、各国政府が凍結したロシア政府関係の資産は、ウクライナ復興費用に充てるため、ウクライナへ転送すべきだと主張した。

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<解説> 戦争が作り出す複数の「現実」――ジョー・インウッドBBCウクライナ特派員

プーチン大統領が、マクロン仏大統領およびショルツ独首相と行った電話会談の内容を、ロシア大統領府の発表で読むと、ロシアはまるでウクライナで平和維持活動に携わっているかのように思える。南東部の港湾都市マリウポリは今やがれきだらけだが、そこでのロシア軍の行動は「平和的で穏やかな生活の確保」と「解放」のためだったのだと、ロシアは言う。

同じ通話に関するドイツとフランス側の発表とは、あまりに対照的だ。両国政府の発表では、投降した2500人のウクライナ兵の安全が通話の主な話題だったという。

さらに、あらゆる第三者の現地報告とも、ロシアの言い分はあまりに異なる。ウクライナの一部を占領するロシア軍が、数々の戦争犯罪を重ねてきたことについて、信頼できる報告が複数出ているからだ。

とはいうものの、欧州連合(EU)二大主要国の首脳が、ロシア大統領と直接話をしたのは重要だ。

ロシア軍がウクライナ東部ドンバスで戦果をあげている中で、仏独はロシアに外交による紛争解決を呼びかけた。西側の全同盟国がこれに同意しているわけではない。領土割譲を引き換えに和平を受け入れるよう、ウクライナに圧力がかかる懸念があるからだ。

この間、ロシア軍はドンバスで交通の要衝リマンを掌握したと発表し、主要工業都市セヴェロドネスクへの攻撃を続けている。セヴェロドネスクはすでに数日前からロシア軍に包囲されており、現地当局はウクライナが戦略上、ここから撤退するかもしれないと見通しを示している。

ロシアに対する西側の団結がほどけつつあるのか、それを今日の仏独ロ会談から判断するのは性急すぎる。しかし、立場の違いは表面化しつつある。

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