イラン、核施設で「破壊工作」と発表 サイバー攻撃との報道も

A satellite image shows Iran's Natanz nuclear facility in Isfahan, Iran, 21 October 2020

画像提供, Reuters

画像説明, イラン・ナタンズの原子力開発施設

イランの原子力当局は11日、テヘラン南郊ナタンズの原子力開発施設が「破壊工作」にあっていると発表した。この前日には、新たなウラン濃縮施設の完成を発表したばかりだった。

イラン原子力庁(AEOI)のアリ・アクバル・サレヒ長官は、この施設が停電に見舞われたと述べた一方で、この「テロ行為」の実行者については語らなかった。

しかしイスラエルの公共放送は情報機関筋の話として、イスラエルによるサイバー攻撃の結果だと報じている。

イスラエル政府はこの件について直接、見解を示していないものの、ここ数日、イランの原子力開発に対する警告を強めていた。

イランの核開発については、2018年にドナルド・トランプ前米大統領が破棄した2015年の核合意を回復させる外交努力が始まったばかり。

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イランのハッサン・ロウハニ大統領は10日、ナタンズに新設された遠心分離施設の開所式に参加し、その様子はテレビで中継された。

遠心分離機は濃縮ウランの製造に必要な機器。濃縮ウランは核燃料だけでなく核兵器の開発にも使用される。

2015年の核合意では、濃縮ウランの製造・貯蔵量を制限し、原発への利用のみにとどめていた。今回の遠心分離施設は、こうした制約への違反となる。

「原子力テロ」と「破壊工作」

AEOIのベフルーズ・カマルバンディ報道官は11日、この日の朝に核施設の電力網に「事件」が起きたと発表した。

詳細は明らかにしなかったが、ファルス通信の取材に対し、「犠牲者や漏えい」などは発生していないと述べた。

その後、国営テレビがサレヒ長官の声明を発表。その中で長官は、この事件は「破壊工作」で「原子力テロ」だと説明した。

「イランはこの卑劣な行いを非難するとともに、国際社会と国際原子力機関(IAEA)に対し、この原子力テロへの対応を強く求める」

「イランには攻撃者に対処する権利がある」

IAEAは、この事件の報道は把握しているが、コメントしないとしている。

ナタンズの施設では昨年7月も、遠心分離機の組立工場で火災が発生している。

なぜイスラエルが関与?

イスラエルの公共放送KANは、匿名の情報機関筋の話として、ナタンズの各施設の停電はイスラエルのサイバー攻撃によるものだと報じた。

イスラエル紙ハアレツも、イスラエルのサイバー攻撃が原因だと推測されると伝えている。

ニュースサイト「Yネット」の防衛アナリスト、ロン・ベン=イシャイ氏は、イランが核兵器開発の能力を高めていることを考えると、「この事件が事故だとは考えづらく、アメリカとの制裁解除に向けた交渉によって加速している核開発競争を遅らせるための、計画的な破壊工作だろう」と指摘した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は11日、「イランとその代理人たち、およびイランの武装計画との戦いは大きなミッションだ」と語った。

ネタニヤフ首相は核施設での出来事には直接触れなかったものの、「今日の状況があしたも続くとは限らない」と述べた。

ジョー・バイデン米政権は、トランプ政権が破棄したイランとの核合意を回復させるための外交努力を続けている。

しかし、ネタニヤフ首相はアメリカの核合意復帰に反対しており、先週にはイラン政府との新たな合意にイスラエルが縛られることはないと発言している。

核合意をめぐる動き

核合意では、イランでのウランの濃縮率を3.67%と定めている。濃縮率90%以上のウランは核兵器に使用される。

トランプ前米大統領は、この核合意は「殺人を好む政権が平和的な核エネルギー事業しか望んでいないという壮大なフィクション」に基づいていると批判し、イランに代わりの合意を交渉させるため、経済制裁を科していた。

これに対し、イランは核兵器開発を行う予定はないと反論し、核合意の規定を次々と破ることで対抗している。

ウラン濃縮のための先進的な遠心分離装置を導入したのに加え、国連の核施設視察を阻止し、ウラン濃縮を推進できる新法を制定。ウランの保有量も拡大させている。