岸田首相、ウクライナでゼレンスキー大統領と会談 共同会見で装備品供与を表明

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画像説明, ウクライナの首都キーウで共同記者会見に臨んだ日本の岸田文雄首相とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(21日)

日本の岸田文雄首相は21日、ウクライナを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。その後の共同記者会見で岸田首相は、殺傷能力のない装備品などを供与すると表明。一方のゼレンスキー大統領は、5月の主要7カ国(G7)広島サミットにオンラインで参加することを明らかにした。

昨年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始して以来、首相がウクライナを訪れるのは初めて。

岸田首相は訪問先のインドからまずポーランドへ向かい、そこから列車でウクライナ入りした。キーウには現地時間の昼(日本時間21日夜)に到着した。

日本政府は開戦当初からウクライナを支持し、主要7カ国(G7)の他の国と同様、ロシアに経済制裁を科してきた。日本は今年G7議長国で、今年5月には広島でG7サミットを主催する。これまで岸田首相はG7首脳で1人だけ、開戦後のウクライナを訪れていなかった。

太平洋戦争後に日本の首相が、戦闘が続く国や地域を訪れるのは初めて。

岸田氏はキーウに到着後、近郊のブチャへ移動し、集団埋葬地を訪れて花を手向けた。ブチャは昨年2月末の侵攻開始から間もなく、ロシア軍に占領された。4月初めまでにロシア軍が撤退した後、市街地で多数の民間人が殺害されているのが発見された。

キーウ近郊ブチャで集団埋葬地に花を手向ける岸田首相(21日、ウクライナ・ブチャ)

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画像説明, キーウ近郊ブチャで聖アンドリー教会の外の集団埋葬地に花を手向ける岸田首相(21日、ウクライナ・ブチャ)
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ウクライナ当局や現地住民によると、ブチャでロシア軍は数百人の住民を殺害したとされる。

岸田氏は「残虐な行為に対して強い憤りを感じる。(中略)日本国民を代表して心からお悔やみを申し上げ、お見舞いを申し上げる」と述べた。

岸田首相はその後、キーウ市内に戻り、2014年からのロシアとの戦いで死亡したウクライナ兵を追悼する慰霊碑を訪れた。

2014年からのロシアとの戦いで死亡したウクライナ兵を追悼する慰霊碑を訪れた岸田首相(21日、キーウ)

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画像説明, 2014年からのロシアとの戦いで死亡したウクライナ兵を追悼する慰霊碑を訪れた岸田首相(21日、キーウ・聖ミハイル黄金ドーム修道院外)
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この後、岸田首相はマリインスキー大統領宮殿で、ゼレンスキー大統領やウクライナ政府幹部と会談。「特別なグローバル・パートナーシップに関する共同声明」に署名した。ゼレンスキー大統領は、「この文書は、我々が共に守る価値観と、まだ実現されていない私たちの願望の両方を反映している」と説明した。

朝日新聞によると、その後の共同記者会見で岸田首相は、「ロシアのウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙」だと述べ、「唯一の戦争被爆国の我が国として、ロシアの核兵器による威嚇は受け入れられない」と強調した。

その上で、北大西洋条約機構(NATO)の基金を通じて、ウクライナに3000万ドル相当の殺傷能力のない装備品を供与すると表明した。NHKによると、エネルギー分野などでも新たな無償支援として4億7000万ドルを供与するという。

さらに、「ゼレンスキー大統領からは、G7広島サミットではロシアによる核兵器使用の威嚇への対応などを取り上げてもらいたいという話があり、議長国として、法の支配に基づく国際秩序を守るためのリーダーシップを発揮する決意を新たにした。一致した明確なメッセージを発することができるよう準備を進めていきたい」と述べた。

動画説明, 岸田首相がウクライナ訪問 ゼレンスキー大統領と連携拡大を表明
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ゼレンスキー氏は、「ウクライナ領土の解放が始まった記念日の今日、岸田首相が初めてウクライナを訪問するのは象徴的なことだ。しかも、彼はブチャからスタートした。このことに非常に感謝している」と述べた。

その上で、岸田首相から5月のG7広島サミットへの招待を受けたとし、オンラインで参加することを明らかにした。

ゼレンスキー氏は、ロシアの侵攻開始以降、日本による復興支援は70億ドル(約9300億円)超に上っていると説明。首脳会談では、医療施設のほか、自動車産業や緑化、水素設備やリチウム電池といった産業の復興に関与してもらいたいと提案したと話した。

また、日本からの人道支援に強い関心を示した。

ウクライナ外務省のエミネ・ジャパロワ第1外務次官はツイッターで、岸田首相がキーウの駅に着いた写真と共に、「ウクライナは日本の岸田文雄首相を歓迎できてうれしい。この歴史的な訪問は、ウクライナと日本の間の連帯と強い協力関係のしるしです。私たちの未来の勝利を日本が強く支持し、貢献してくれていることに感謝します」と書いた。

日本の外務省は首脳会談に先立ち、「岸田総理大臣からゼレンスキー大統領に対し、ゼレンスキー大統領のリーダーシップの下で、祖国を守るために立ち上がっているウクライナ国民の勇気と忍耐に敬意を表し、日本及び日本が議長を務めるG7として、ウクライナへの連帯と揺るぎない支援を岸田総理大臣から直接伝える予定」と説明。さらに、「ゼレンスキー大統領との首脳会談において、ロシアによる侵略と力による一方的な現状変更を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を改めて確認する」と明らかにしていた。

中国・習主席の訪ロとの対比

岸田首相のウクライナ訪問と重なり、モスクワでは訪問中の習近平・中国国家主席がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談中だった。習主席は21日、中国はロシアとのつながりを優先すると述べ、両国を「隣り合う偉大な大国同士」と呼んだ。

日本と中国は今年2月に東京で、日本と中国の外務・防衛当局の高官による「日中安保対話」を約4年ぶりに行ったばかり。その際に中国側は日本の防衛力増強について懸念をあらわにし、日本側は中国とロシアの軍事的結びつきや、中国の使用が疑われる偵察気球について懸念を示した。

BBCのスティーヴン・マクドネル北京特派員は、岸田首相のウクライナ訪問はロシア訪問中の習主席に「相当のプレッシャーをかけることになる」と指摘した。

日本では、ウクライナでの戦争について独自の懸念もある。BBCのシャイマ・ハリル東京特派員は、ロシアによるウクライナ侵攻に類似した最悪のシナリオとして、中国による台湾軍事侵攻が起きれば日本も確実に巻き込まれるだろうという深い懸念が、日本にはあると指摘する。