チャールズ英国王の訪仏が延期に 年金改革めぐる抗議フランス各地で激化

ポール・カービー(ロンドン)、ヒュー・スコフィールド・パリ特派員、ショーン・コラン王室担当編集委員

The King and Queen Consort, pictured in Bolton in January

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画像説明, チャールズ英国王とカミラ王妃

英首相官邸は24日、国王チャールズ3世のフランス公式訪問について、エマニュエル・マクロン仏大統領から延期の申し出があったと発表した。

フランスでは、年金改革への抗議デモが続いており、公式訪問の日程中にも労働組合が抗議を引き続き予定している。

そのためマクロン大統領は、現状でイギリス国王を受け入れるのはフランスにとって「分別がなく非常識」なことになってしまうと述べた。

チャールズ国王の訪仏は26~28日の3日間の予定で、首都パリやボルドーが含まれていた。

しかしどちらの都市でも23日の抗議行動の中で暴動が発生。今年1月に始まったデモの中でも最悪の事態となった。

国王夫妻の公務を管理する英王室バッキンガム宮殿は、チャールズ国王とカミラ王妃の訪仏延期は「フランスの状況」を理由に決まったと説明した。

また、「日程が見極められ次第、フランス訪問の機会を両陛下は心待ちにしている」とも述べた。

マクロン氏は23日夜、労組が28日に10回目の抗議デモを行うと発表した時点で、英国王と王妃の訪問は不適切だと感じたと話した。

「我々は英国王と王妃、そしてイギリス国民に大きな友情と尊敬を感じている。だからこそ今朝、国王に電話して状況を説明した(中略)常識と友情から、延期の判断につながった」

イギリス政府は、この決定が「関係者全員の総意」によるものだと説明マクロン氏は、フランス側は「事態が再び落ち着く」のを待ち、初夏への予定変更を提案したとしている。

Protester runs from riot police in Paris

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画像説明, パリで警察官から逃げようとする抗議参加者

英国王の訪仏延期は、フランス政府とマクロン大統領に面目を失わせる事態となった。イギリスの新君主にフランスの優れた部分を披露し、新しい友情を確かなものにするチャンスのはずだった。

今回の決定に、フランスの野党は左右を問わずに反応した。

共和党のエリック・チョッティ議員は、延期は「フランスの恥だ」と述べた。極左のジャン=リュック・メランション議員は、「ヴェルサイユ宮殿での謁見」がなくなったのは喜ばしいと発言。「イングランド人」は、フランス内相の「警備力がお粗末」なことを知っていたのだとも付け加えた。

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フランス政府は20日、年金受給年齢を62歳から64歳に引き上げる法案を押し通すと決定した。

今月初めには、議会で過半数の賛成を得られないと分かっていたため、エリザベット・ボルヌ首相は、法案を強制的に採択できると定めた憲法49条3項を適用した。

一連の動きに対する抗議デモが、公式訪問取りやめの原因となった。23日にはフランス全土で100万人以上がデモに参加。おおむね平和的な抗議だったが、いくつかの都市では暴動に発展した。

南西部ボルドーでは、市庁舎の玄関に火が放たれた。パリでは警察が催涙ガスを使用し、ジェラルド・ダルマナン内相は903件の放火があったと述べた。パリでは3月6日以降、ゴミ回収業者がストを行っている。

フランス各地で数百人の警察官が負傷した一方で、抗議参加者は閃光弾などで負傷している。欧州理事会はこれについて、当局による「過剰な武力」は正当化できないと指摘した。

中部ナンテールで法律を学ぶアデルさん(19)は、「きのうマクロン氏の話を聞いていたが、顔に唾を吐きかけられたようだった」と話した。

「この年金改革には別の方法があるのに、それをしないということは、大統領が国民の声を聞いていないということ。民主主義の欠落は明らかだ」

Protesters stand near burning garbage bins during a demonstration as part of the ninth day of nationwide strikes and protests against French government's pension reform, in Nantes, France, March 23, 2023.

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画像説明, フランス南部ナントでは、市内のごみ箱に火がつけられた(2023年3月23日)
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チャールズ国王にとって、今回の旅はとても重要なものだった。初の外国公式訪問で、相手はイギリスの最も近く、最も古い同盟国のひとつだからだ。国王と王妃はシャンゼリゼ通りを通ってパリ中心部に入り、ヴェルサイユ宮殿でマクロン大統領と会食する予定だった。

カミラ王妃は、オルセー美術館で展覧会の開会式に出席することになっていた。2人はその後、ボルドーへ向かう予定だった。

だが、旅程のあらゆる段階で抗議参加者の標的になるリスクがあるとされ、訪問は中止となった。国賓が歩く赤いじゅうたんを敷く作業の担当者さえ、ストライキを計画していたという。

ダルマナン内相は24日朝の時点で、チャールズ国王に対して「把握している脅威はない」としていた。ボルドーのピエール・ ウルミック市長も、同市訪問で「国王を危険にさらすことがないよう、最高のセキュリティーのもとで行えるよう」に調整されたと述べた。

しかし、国王が通る予定の道路はごみや落書きだらけで、国王がどこへ出るにもがんじがらめの厳重警戒が必要で、かつ国王のあらゆる移動がストの影響を受けかねないという事態を前に、マクロン大統領は当然の選択をしたといえる。

決定は英政府と共同で行われたかもしれないが、圧力を受けていたのはマクロン氏だった。フランス当局は24日朝の時点では、公式訪問を予定通り行ない、警備もきちんと配備されると念押ししていた。イギリスからはすでに、このイベントに向けて渡仏している記者もいた。

ボルドー訪問では、当初オーガニックのワイナリーを視察する予定だった。23日に玄関が燃やされた市庁舎も、訪問先に含まれていた。

もし公式訪問が決行されていたら、フランス国内でのマクロン氏のイメージはさらに悪化した恐れがある。ヴェルサイユ宮殿でのチャールズ国王との会食は、現状に照らしてきわめて不適切だと非難された可能性があり、むしろ大統領を非難する勢力の思うつぼだった可能性もある。

23日の全国的なデモの前夜に行われたテレビ取材でマクロン氏は、政府の年金改革は経済的に必要なものだと説明。結果として生じる不人気を受け入れる用意があると述べたことが、デモを活気づかせたようだ。

公式訪問の延期はマクロン氏にとって大きなマイナスとなるが、チャールズ国王にとっても残念な展開だ。

イギリス君主の公式訪問は、政府の助言によって決められる。今回の訪仏については、欧州の近隣諸国との関係再構築のに向けた、重要な外交的声明だとの説明があった。

国王と王妃はフランス訪問後、29日にドイツを訪れる予定だった。だがチャールズ国王初の外国公式訪問は、ベルリンから始まることになった。